『プライド』(上)
2008年03月15日 コンサルタントF
それはK先生の電話から始まった。
「外科医としてバリバリ働けるようなところを紹介いただけませんか?」
K先生の、思いのほか明るくさっぱりした口調に若干面食らったものの、早速お会いさせていただくことになった。 1週間後、とある駅の改札口で待っているとK先生が現れた。初めてお会い頂くこともあってか、先日の電話でのイメージとは異なり、慎重な面持ちだった。
挨拶もそこそこに『K先生、どうして退職を決められたのですか?』と切り出すと、「聞いて下さいよ!今の病院はね・・・」と、これまでの表情から一変して熱く活き活きと話し始めた。
K先生は、学生時代から自分の力で患者を回復させたい気持ちが強かった事から、回復の度合いが明確な外科を志望していた。某国立大学医学部を卒業後、少しでも多くの臨床経験を積むため、医局にも属さず民間医療法人グループに入職し、まさにバリバリと手術をこなされてきたそうだ。
40歳になられた時、K先生は初めて転職されたとのことだった。自分の能力が活かせ、またそれに見合った給与を求め、現在の勤務先であるA病院に転職を決められたそうだ。
A病院での勤務を実際に始めてみると、担当患者は外科より圧倒的に内科の患者が多く、メスを握る機会はほぼ皆無であったとのこと。また夜間救急対応も売上げ中心の経営方針から、基本的にはどんな診療科の患者であっても受け入れを断ることが出来ず、本来の外科医としての能力は全く活かすことが出来なかったとのことだった。
「2年は耐えましたよ。けど、我慢して勤務を続ければ続けるほど、自分の存在価値や本来の志を貫きたい気持ちが、日に日に強くなっていくんです。しかも、手術というのは数を経験して上手になるもの。今の状況を何年か続ければ、手術が出来なくなるかもしれないんですよ。また、外科医としてバリバリ仕事がしたいんです。どこか良いところはありませんか?」と、切切と訴えられた。
私は、外科医として活躍できるところ必ず紹介しようと心に誓い、その日の面談を終らせた。
早速、先生のお住まいからの距離と、外科医としての勤務内容を考慮し、求人を探すべく各施設に連絡をしていった。しかし、どの施設も手術患者の減少からか、外科の求人が少なく良い返事は頂けなかった。『経験豊富でいいDr.なのに・・』と思いつつも、半ば挫折しかけていたころ、とある先生から情報をいただけた。
B病院なのだが、大学医局の引き上げが決定していて、半年後には常勤のドクターが今の7割くらいに減少する予定だそうだ。半信半疑、B病院に確認してみると、まさに情報どおりで、色々な診療科で引き上げが決まっているとのこと。K先生を打診すると、二つ返事で面談の希望を頂戴した。
K先生にも報告させていただいた。すると、「B病院なら法人規模も大きく、地域の基幹病院としてしっかりされてますよね。ぜひ、面接を受けさせてください。」と、快諾いただけた。良いご縁になってほしいと強く思いながら、面接日を設定させていただいた。
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