迷い、そして原点へ(下)
2011年8月1日 コンサルタントH
面接を終えた時点でY先生には大きな迷いがあった。それはA病院に対する条件的な不安などではない。“精神科への転科”そのものへの迷いであった。面接から3日後の夜、Y先生から電話が入った。「精神科医としての開業が、私の本当に求める将来の姿ではない気がする。決断後に後悔して後ずさりできる年齢でもないですしね」その言葉に私は、「では2~3日トライアル勤務をされ、もう一度精神科診療の様子をご確認下さい。その上で迷いがあれば、やはり専門の内科診療を続けられるべきです」とお答えした。
数日後、トライアル勤務の初日を終えたY先生より電話を受けた。「トライアルは今日の1日で結構です。やはり私には精神科は向かない。内科医として患者さんに向き合いたい」という内容であった。続けてY先生は、「実は精神科の開業であれば、内科としての開業より有利ではないかと考えていた。しかし見えていなかった点も多く、想いを実現するまで自分の気持ちを維持する自信がない」と、お気持ちを話された。
翌日から方向を切り替え、内科医として、Y先生の意向に沿った情報を集めた。Y先生の希望勤務エリアには多くの募集があった。しかし、同時に出身大学の側でもあり、既に医局を抜けられた先生には大きな弊害であった。希望を満たす勤務内容・条件を提示される病院もお知り合いの先生が多く、「数年後の開業を前提とした勤務はとてもお願いできない」との結論に至った。そこで私は、勤務エリアを見直して頂くことを提案し、Y先生の自宅近くの駅より電車で40分、隣県のB病院を紹介した。出身大学医局との繋がりのないエリアで、Y先生の希望される療養型の病院であった。年俸は週5日で1,800万円。当直料は別途支給である。当初の希望エリアには療養型でここまでの条件を提示される病院はなかったが、Y先生には3年後の開業への想いがある。私は改めて病院へ相談し、月2回の当直を含め年俸2,000万円の再提示を受けた。この内容にY先生も強く興味を持たれ、「すぐに詳しい話を聞きたい」とのお言葉を頂いた。
面接時に施設見学をされたY先生は、「すこしゆとりがありすぎるが、以前のような身体の負担はないでしょう。条件面も大変満足です」とおっしゃり、1週間後には「ここに決めます」と正式なお返事を頂いた。B病院の理事長も、「Y先生なら2,000万円出しても惜しくない」と高く評価され、Y先生の入職を心より喜んでおられた。入職から1ヶ月が経った現在、Y先生は「以前のように週末の非常勤アルバイトを紹介してほしい」と精力的に勤務され、開業への想いを実現するため、充実した日々を送られている。
Y先生との時間をきっかけに、改めてじっくり本音を伺うことの大切さを考えさせられた。
転職をサポートする立場として、原点を忘れずに今後も先生方のサポートをしていきたいと思う。
完
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