困難な要望(下)
2011年1月1日 コンサルタントO
T先生は9月から次の勤務を希望されている。早速、面談し改めてT先生の希望を整理した。土日が休み、平日は18時勤務終了、当直無し、年に3回の4日以上の休暇取得、公共の交通機関で通勤可能な地域という希望に変更はなく、内科医のスキル習得を継続したいと希望されている。求人の検索に苦労することは確実で、時間的にも余裕はない状況であった。当直、時間外勤務、休日などについては多くの医師から相談を受ける内容であり、仕事のON/OFFのメリハリをつけたい事に理解を示す医療機関は決して少なくない。しかし、高齢の母親の面倒をみる理由があるとはいえT先生の希望は多すぎる。即戦力の医師であれば病院側との交渉も可能であるが、T先生の場合は逆である。常識的に考えると臨床業務の紹介は困難で、老健や健診施設も検討頂けないか相談したが、臨床業務にこだわりたいとの意志は固く、覚悟を決めて求人検索を開始することとなった。
「受け入れられる余裕がない」、「休日・休暇の希望は受けられない」などを理由に数多くの病院から断りを受けた。通常の手法で確認を続けても道は開けそうにない。「前職時の年俸1,100万円から減額になっても構わない」というT先生の譲歩を交渉材料に、高齢の母親の面倒をみるという理由に脚色し、可能な限り足を運んでT先生の希望に対する理解を求めた。その結果、臨床研修指定病院のA病院、100床未満のB病院の求人を得ることに何とか成功した。A病院は、T先生の内科経験の短さを考慮し、指導医をつけた研修を実施後に正規の常勤医として採用する条件である。B病院は、健診の担当医として勤務し、受診者の受け入れ曜日を固定した上で空き日を内科の研修に当てる。習得状況をみて外来を数コマ受け持つという条件である。T先生の希望条件を了承してもらった分高額な給与は望めない。前職での苦い経験を繰り返さないことを重視した結果であり、これ以上の検索は困難と思えるところまでやりきったという自負はあった。
その思いを察して頂けたのか、T先生より両院とも面接に臨むことをご承諾頂くことができた。面接では、T先生の人柄が伝わり病院側が求める職務をこなせるかがポイントとなる。T先生は正直すぎる面があるが、温厚で真面目な方なので人柄面の不安はない。求められる職務に対応可能と判断されるかどうかの不安は残った。綿密な打ち合わせをして面接に臨んだが、過去の苦い経験もある。一問一答に神経を尖らせ瞬時にフォローできるよう準備はしていたが、T先生が無難に対応頂いたことで、手応えを感じて面接を終えることができた。数日後、無事両病院からT先生をお迎えしたいと回答を受けたときは、正直安堵感のほうが強かった。A病院の手厚い指導体制とB病院の融通性、どちらを選択するべきか熟考された結果、T先生はB病院への入職を決断された。年俸は週5日勤務で1,080万円の条件となったが、外来や他業務を担うようになれば加算される条件つきである。T先生は健診医の業務に専念して研修機会を得られないことを少し心配されていたが、無事9月から順調に勤務を継続して頂いている。入職後間もない頃、「すぐに歓迎会を開いてくれたのですが、この年齢になるとさすがに照れました」と感想を聞いた時、はじめて紹介させて頂いて良かったと喜びを実感できた気がした。
求人を作り出すことと、条件交渉では今までで一番苦労したと思う。正直にいうと、T先生に臨床業務の紹介は無理ですと謝罪することを考えた時期もあった。諦めずに打開策を講じることでマッチングに成功した事は自身にとっても大きな収穫となった。もちろん、密に打ち合わせを重ねて相談に応じて頂いたT先生の協力があったからであり、私を信頼して頂いたT先生には心から感謝している。今後もT先生と連絡をとり合いながら、継続してお付き合いさせて頂くことを切に願うばかりである。
完
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