ドクター転職ショートストーリー

地域偏在の解消に向けて(上)

2009年9月15日 コンサルタントT

 4月の下旬、K先生からアンケートの返信が届いた。「転職したいので、検診の求人を紹介してほしい」という内容だった。以前から登録いただいていた先生だったので、面談を行わず、すぐに電話で連絡を取った。

 K先生はとても優しく、丁寧な先生で、ご希望内容のヒヤリング中で私が分からない専門用語や医療機器の名前などが出てくると、とても分かりやすく説明して下さった。体調を崩されたこともあり、しばらくの間は定期非常勤の仕事やアルバイトなどをされてきたが、体調もよくなり、体力も戻ってきたので、常勤の仕事で、週の勤務日数を4日から4.5日で探してほしいとの希望であった。
 希望条件をお伺いした後、ちょっとした間が空いた。K先生が話すことはもうないだろうと思い、私もお伺いする内容は全て聞けたので、「K先生、頑張って求人を探します」と挨拶をして電話を切ろうとした。しかし、そこで淡々とした先生の口調が変わり、「週4日だと求人がなかなかないんだよなあ。無理を言っているのは分かっている。ただ、週4.5日だと患者様の数が多いときはまだ体がきついんだよ。検診というのはね、楽そうに見えるけど、検診に来た患者様の異変に少しでも早く気付こうと思うと、色々神経を使うんだよ。患者様との会話、レントゲンに写っている影とかね。何回か来ている患者様なら比較するレントゲンなどがあるので、異変も見付けやすい。ただ、初めて来た患者様は比較するものがないから、2回、3回と来てもらって比較して初めて気付くときもある。治療を行うならば、早ければ早いほど体への負担は少ないだろう?余談になったけど、何とか医療機関を見付けて下さい。年収は下がっても構わないから、お願いしますね」と語られた。

 私はK先生のお気持ちを理解し、「最善を尽くして先生のご希望にかなう医療機関を探します」と伝え、電話を切った。

 早速、一般病院を中心に「検診希望の先生がおりまして・・・」とひたすら電話をする。しかし、2008年4月、厚生労働省が特定健診・特定保健指導を義務付けて以来、各医療機関が検診を一つの部署として独立させ、少しでも多くの患者様に選んでいただこうと様々な特徴のある検査の組合せを作っている。検診内容や勤務日数を変更するということは医療機関側からすると考えにくい交渉内容の一つでもあり、交渉の席にもついていただけないのが現実であった。

 やっと、先生の希望に近い求人をいくつかピックアップした頃、求人の依頼が1件入った。群馬にあるM病院が健診科を立ち上げるべく、常勤医を募集しているとのことだった。早速、M病院に連絡をとり条件を聞いた。「基本は週5日勤務だが、曜日は相談に乗ります。ドック5名、健診が20名位で、慣れてきた頃に30名位にしたいと思っている。本格的に始動させていく6月からは、特定健診も実施予定で、心電図・胸部エコー・胸部レントゲン・マンモグラフィー・胴部MRの読影ができる先生がよい。これまで、大学医局の派遣で医師をまかなっていたが、現在は引き上げ傾向にある。今後は常勤の先生に来てもらい、体制を整えておきたい。群馬だと募集をかけても、なかなか集まらない。なんとかお願いします」とのことだった。
 私が「検診希望の先生がいらっしゃいますが、希望条件がいくつかあります」と説明をすると、「その先生と会わせてもらえないか。まだ条件を全てのめるとは言えないが、相談に乗れる部分はある。是非お願いします」とのことで、先生に確認をして折り返すことを伝えた。

 K先生に連絡をとり、「先生と是非お会いしたいという医療機関がございます」と切り出すと、先生は「条件を聞かせてもらえる?」とおっしゃった。そこで私は条件からではなく、あえて業務内容から話し出した。
 なぜかと言うと、科目を問わず、群馬は求人が出てもなかなか医師が集まらず、待遇などを高めに設定しても募集枠が埋まらないエリアだからだ。ある科目で言えば、東京23区付近では1,500~1,800万円が平均年俸だが、群馬では同じ条件でも年俸が2,000~2,200万円まで跳ね上がる。それでも入職まで至らないのが現実なのだ。

 私は「勤務日数は5日ですが、相談に乗っていただけます。院外検診や巡回ドックについては非常勤の先生に行ってもらい、調整を図ることは可能です。絶対とは言えませんが、ある程度、先生の希望に合わせることは可能です。患者様の数も20名前後で、人数を増やすのは今後、本格始動してからです。ただ、基本年俸は勤務日数により前後します」と答えた。
 先生は、明るい声で「本当に?それだったら私も会ってみたい。院外健診や巡回ドックの部分を直接聞きたいし、人数的にも丁度いい。ただ、いつ頃から健診の患者様の数を増やしていくのか、詳しく聞きたい」とおっしゃった。と同時に、先生から当然の質問が来た。「病院の場所はどこなの?」私は少し間を空けて答えた。「群馬の医療機関です」

 すると、今まで明るかった声が、独り言をつぶやくような声に変わり「北関東か・・・」とおっしゃったまま、少しの間、沈黙が続く。メリットやデメリットを整理されるのに必要な時間だったように思う。するとK先生は「通えない距離や場所ではないが、群馬は全然、考えていなかった地域だったからな」と即答されない。
 私は、再度情報の整理をすることを提案した。「群馬に行くデメリットを明確にして、それに勝るメリットがあるのかここではっきりさせて、会う会わないを決めましょう。回答は後日でかまいません」と言った。先生もそのほうが良いと言われ、次々とデメリットを挙げられた。

 私はそのデメリットを箇条書きにしてまとめ、K先生に確認をとった。「先生、デメリットに感じる部分は、①受診する数が減り、技術が落ちる ②医師が集まらず、結局、激務になるのではないか ③最新の医療機器や技術が得られず知識的に取り残される気がする ④知識レベルを維持・向上させるための勉強をする環境が整っているか(周りに指導できる先生がいるか) ⑤長く勤めれば、勤務日数も増えるので、いずれは引越さなければならず、お子様の教育の問題が出てくること。以上5点で宜しいですか?」と聞いた。先生は概ねそれで良いと答えた。
次に先生にM病院のメリットを言っていただいた。先生は、「勤務条件をある程度合わせてもらえるということに一番メリットを感じる。患者数もちょうどいいし、通える距離でもあるしな・・・」と、デメリットと同じように箇条書きにし、先生に確認をとり、答えは後日と約束し、電話を切った。

次へ続く

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