外科医であり続ける事(上)
2009年7月15日 コンサルタントM
ケアミックスのA病院から「常勤医の若返りを図りたい」と相談を受けたのは4月の終わり、ゴールデンウィークを目前に控えた時期だった。理事長から「現在、73歳を筆頭に、常勤医の平均年齢が非常に高い」との現状を伺い、「現在は申し分ないが、これから世代交代をしていきたい」、「医師の新規採用で、ベテランの医師を押し出すことは考えていない」などの難題を仰せつかった。加えて、「一番の高齢の副院長と実際に話をしてみてくれないか」というお願いまでされた。
A病院からの要望には腑に落ちない点もあったが、件の副院長先生と短時間の面談を行った。副院長のK先生の第一印象はとても70代には見えない血色の良さと温和な印象を併せ持った、いわゆる「達者なお年寄り」という感じであった。早速、A病院の現状やご自身のキャリアについて話を聞いていくうちに、心臓血管外科や胸部外科の黎明期を過ごされたパイオニア的な存在であり、「オペのあった日は晩飯が旨い」と言い切る、根っからの外科医ということが分かった。
その根っからの外科医のK先生は高齢ではあるものの、療養病棟の管理を日々の職務にされているということで、自身の勤務環境にも若干の不満があるようであり、さらに不満を煽っているのは病院の経営方針のようであった。
診療報酬のマイナス改定以来、療養病床の維持管理が困難になってきている。高い医療区分を維持するために病院側も様々な手を講じるのは仕方のないことだが、経営者があまりにも現場に口を出しすぎるのが気に入らない様子であった。
K先生の「長年勤めてきた病院であっても、経営者の交代で居辛くなってきた」、「もう数年、外科医として働ける場はないものか・・・」という話を聞くうちに、A病院側の要求が見えてきたような気がした。
A病院としては医師の若返りを図りたいのではなく、K先生をなんとか異動させたいのではないだろうか。そう仮定してみれば、腑に落ちなかったA病院側の要求も合点がいく。
そこで、A病院にK先生の処遇をどのように考えているのか、遠まわしに尋ねてみた。すると、やはりK先生になんとか移ってもらうことで経営を維持させたい旨の返答が返ってきた。
そうなると、A病院側の事情や意図を知らぬものとして、K先生に外科医としての活躍の場を提供することが最良の選択肢だと判断するに至った。
ここからが正念場となる。早速、今度は院外でK先生と面談の場を持った。そして、「K先生、メスを握る機会を増やしませんか?」と提案してみた。するとK先生は「今の病院には長年世話になっているし、受持ちの患者さんも僕を慕って来院してくれている」との答えで、意外にも腰が重そうだった。そこで、「医師としてのキャリアを外科医として締めくくるお心積もりはないですか?」と改めて問いかけると、K先生は意を決した様子で、「この年齢でも大丈夫だろうか?」、「受け入れてくれる病院はあるのか?」と具体的な疑問を投げかけてきた。すかさず「もちろんありますが、多くあるわけではありません」、「勤務も今よりハードになりますが、大丈夫ですか?」と返答した。
すると、K先生は寂しそうに「もうこの年になると知り合いを通じても、思うような職場がなかなかない」、「みんな現場を離れ、偉くなってしまった・・・、無理な条件は言わないので、なんとかお願いします」とおっしゃる。
外科医であり続けたいという願いもさることながら、医療の現場に居続けたいK先生の切実な思いが伝わってきた。
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