医療の追求(上)
2009年6月15日 コンサルタントK
S先生から一通のメールが届いた。
「現在の勤務先が回復期に力を入れるようになり、自分が求めている医療とかけ離れてきているので、どこか良いところはないでしょうか?」
私はすぐにS先生に連絡を取り、面談の時間を頂いた。
面談場所に来られたS先生はがっちりした体型だが、とても穏やかで気さくな人柄というのが第一印象だった。
40代前半のS先生は都内の私立大学を卒業された後、大学病院に心臓外科医として勤務されていたが、3年前に医局を離れ、民間病院に勤務されていた。
S先生は専門以外にも循環器内科、透析管理の経験もあり、現在の勤務先では心臓血管外科部長として、循環器内科を一人で兼務し、非常に多忙でありながらも充実した日々を過ごされていた。
地域の中核病院で、外来、オペ、救急対応までされてきたのだが、最近になって病院の方針が変わり、回復期にウェイトを置くようになったのが、S先生にとってはかなりの苦痛であった。
「忙しいけど、自分がやれることを精一杯やり遂げたい」と何度も口にされるS先生にとって、回復期はご自分が求めている医療ではないのだ。
「若いうちに、より多くの患者様のために尽くしていきたいし、真剣に医療に取り組みたい。勿論、回復期も大切だが、命に係わる重篤な患者様を一人でも多く助けた い。忙しくても良いので、もっと困っているところで患者様のために自分のスキルを役立てて、専門の心臓血管外科医として働きたい」と強く転職理由を語られ た。
私はS先生のお気持ちを十分理解し、「最善を尽くして、S先生に満足できる医療機関をご案内させて頂きます」と伝え、面談を終えた。
翌日から地域の中核病院を中心に「心臓血管外科医の先生がおられるのですが・・・」とひたすら電話した。しかし、心臓血管外科という科目自体が、どこの病 院にでもある科目ではなく、それなりの規模の病院でしか標榜していない。また多くの心臓血管外科医は大学病院の医局から派遣されている。医局に頼らずに医 師確保をしている医療機関での心臓血管外科医の募集は2病院しかなかった。
早速、S先生に案内をしたところ、2病院とも普段からよく知っておられる医療機関で「H病院に非常に興味があるので、是非話を進めて下さい。今後の流れは、どのように進んでいくのですか?こちらで用意する物はありますか?」と積極的な姿勢で話をされた。
また、H病院に事前に確認してもらいたいという
①過去3年間の診療科別全身麻酔の手術件数や月別救急搬送件数
②救急搬送のうち心疾患に由来する搬送件数
③心臓外科の手術件数及びその内訳件数(バイパス術、弁置換術、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、末梢血管疾患)
については、H病院に連絡をして、S先生に一つ一つ丁寧に明確に答え、面接前にH病院の現状を知って頂いた。
話はトントン拍子で進むかに思えた・・・。
しかし、数日後、S先生から電話が入った。
「これまでは、ほぼ私一人の裁量で、他科のドクターやコメディカルなどと働いてきました。やはり病院を移れば、勝手も違うでしょうし、これまでのようにはいかないと思うのです。これまで一人でやってきたとは言え、心臓血管外科はチームワークが大切です」
新しい病院のチームで上手くやっていけるのかどうか、突然不安になってしまったとのことだった。しかし、これは当然のことであり、ドクターに限らず転職に不安は付き物であるが、そのために私たちが居るのである。
私はS先生に言った。
「とにかく、H病院に見学に行きましょう。実際の現場やドクターの方々とお会いすることで、不安が取り除かれるかもしれません」
内心では、私も不安でたまらなかったが、そんな素振りは一切見せず、電話を切った。
翌日、H病院に連絡し、面接の日程を調整した。
通常、病院見学は転職希望の先生の勤務後である、平日の夜間に行われるか、土曜日の午後に行われることが多いのだが、今回はS先生の研究日(平日)を利用 し、意図的に昼間の時間帯に設定した。夜間の病院を見学するより、見学する病院の本来の姿が見られるからである。もちろんドクターを含めたスタッフの動きも良く分かるし、何より患者様の表情が良く分かる。院内のスタッフの連携が上手く取れている病院は雰囲気がいい。忙しく動きながらも、スタッフが 患者様に笑顔で接している。
「そんな部分を一緒に良く観察しましょう」とS先生に伝え、面接当日を迎えた。
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