ドクター転職ショートストーリー

『天の配剤』(下)

2008年06月01日 コンサルタントS

 M先生の入職は思うようには進まなかった。ある医院で、ほぼ入職決定寸前までいったが、M先生が院長先生よりも年長であったために話が流れてしまった。また別の医院では先方の対応の拙さからM先生の方から辞退することになった。

M先生の入職先を必死になって探しているそんな最中に、ある日、知り合いの医院の事務長から電話が入った。関東の隅といっていい所にある医院で、以前から電話で求人の相談を受けていたところだった。その医院のサテライトクリニックの院長が開業することになったので、弊社の求人サイトに求人票を掲載したいとのご希望だった。
 と、その時、ピンときた。地域は違うが、M先生の希望されている条件に非常にマッチしており、M先生には実力もある。これはもしかしたらいい考えかもしれない。

 事務長にM先生のことを切り出し、反応をうかがってみると非常に感触がいい。すぐに匿名のエントリーカードをファックスしたところ、こんな田舎の医院でよかったら面接に来ていただきたいとの返事を得て、早速M先生に連絡した。M先生も説明するうちに次第に興味をもたれたようで、面接を承諾された。
 面接当日、勤務先になるかもしれないサテライトクリニックに到着すると、M先生は落ち着かない様子でクリニックの周囲を歩き回って、立地などを確認していた。そこに事務長が到着して、面接が始まった。

 後日、事務長曰く、「最初、正直いってあまり良い印象じゃなかったんだよね」とのことだったが、話を進めていくうちに事務長もM先生の人となりを理解していただけたようで、この先生ならサテライトクリニックを任せても心配ないと院長先生に報告されたと聞いた。
 事務長が院長先生との面接を設定していただき、無事合格、晴れて入職が決定した。

 その後、M先生は愛車の軽自動車に家財道具一式を詰め込んでサテライトクリニックにやってきた。サテライトクリニックの離れが空いており、そこに住めることになったのだ。 ようやく勤務先と住居が決まったことで、M先生の表情はとてつもなく晴れ晴れとしていた。

 サテライトクリニックの院長としてスタートの日、M先生は自分の手を固く握り、何度も何度も頭を下げられたが、自分としては喜べない部分があった。
 偶然なのか、運が良かったのか。M先生の入職に関して、全力を尽くせたのか判らなかったからだ。今回のようなことは一度で十分、次回からはもっと理路整然としたやり方で話を進めていこう。
 年賀状のM先生の笑顔を見るにつけ、これは「天の配剤」だったのかもしれないと思わずにはいられなかった。

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