ドクター転職ショートストーリー

『仕事と介護』(上)

2007年11月15日 コンサルタントO

 ある日の事、女性の小さな声で「就職先を紹介して頂けませんか?」と言う電話が入った。たまたま電話を取った私は、思わず、「看護師の方でございますか?」と聞き返してしまった。「いいえ、医師です。東京から九州へ帰郷したのですが直接病院へ問い合わせをするにもどうしたら良いのか分かりません」と言う内容であった。
 即面談の約束を取りお会いした先生は、内科・皮膚科の40代の女医H先生。
医師の求人情報等を見ながら色々と考え、登録する勇気もなく不安ばかりが頭をよぎったが、先ずは話だけでも聞いてみようと思い、電話をしたとの事であった

H先生は、関西の国立大学をご卒業後、自分のスキルをどこまで伸ばせるか挑戦したいと思い、東京の大学医局へ入局され、大学病院で研修を終えた後は、医局派遣で急性期病院に勤務されていたが、この度、母親の介護の為に、実家のある九州に帰郷されたとの事であった。
ご本人は、50歳ぐらいまでは東京で勤務し、その後は両親と同居して面倒を見ようと考えていたが、5年前に父親を亡くされ、一人暮らしになった母親が病気の為に介護が必要となり、予定より早く帰郷するに至ったとの事。さらに今まで介護に携わっている人達を見て、まるで他人事の様に思っていた自分が情けなく感じたとも仰った。
 H先生は故郷で転職をするに当たり、地元の大学を卒業していない為に人脈もなく、かといって今から地元の大学医局に入局するのは年齢的にも家庭の状況を考えても無理であるとお考えになられ、果たして満足のいく職場が見つかるのかどうか、懸念されておられた。勤務されていた東京の病院は、急性期病院で救急、当直も多く、週60時間以上の勤務が当たり前という過酷な環境であったが、ご本人はそれが医師としての使命であり、楽な職場に移りたいというようなことは特に考えた事は無かったとのお話であった。

しかし、今回の職場探しは、今までとは全く状況が異なるため、勤務環境にこだわらざるを得ないことを先生は少し心苦しそうにおっしゃられた。母親の側に少しでも居てあげたいというH先生の心情を察すると、通勤時間、勤務時間・勤務体系を考慮した病院を探す必要があると感じた。さらに、ブランクが長くなり、医師としての感覚が薄れることを懸念する先生の様子を見て、早急な対応が必要だと感じた私は「必ず先生のお役に立てる提案をさせていただきます」と約束し面談を終えた。
 翌日から病院、診療所を探したが、九州は医師不足が深刻な地域でもあり、当直あり・週5日勤務以上の条件がほとんどで、常勤勤務は条件的に合致するものが中々見当たらず、非常勤勤務も視野に入れて探してみたが、通勤時間等の問題もあり、そちらでもめぼしい求人を探すことができず、私は次第に焦り始めていた。

 そんな折、別件で外科のドクターを打診する為に某病院事務長と面談した。
その病院では来月から健診センターが開設される事になっており、スタッフは確保していると以前に言われていた。私はふとH先生の事が頭に浮かび、事務長に「健診で女医さんがいた方が女性患者も安心しますよね?」とH先生を打診してみた。
すると事務長から「それもそうだね、一度、面接をしたい。」との回答を頂いた。私は、病院を出ると同時にH先生に電話をした。「健診だけでも仕事ができれば幸いです。是非、面接をお願いします。」と大変明るい声が返ってきた。面談日時を決めたH先生は「ありがとうございます、がんばります。」と力強い口調で仰られた。

次へ続く

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