ドクター転職ショートストーリー

医師の意志

2004年04月15日 コンサルタントI

W先生は中京圏の急性期病院に勤める40代前半のドクター。専門は血液内科。そのエントリーカードに書かれている経歴は、少々異色であった。一流と呼ばれる国立大学の工学部を卒業後、これまた一流と言える民間企業に入社。その後数年を経て、改めて難関といわれる国立大学の医学部へ入学・卒業されている。また、当時の勤務先も非常に有名な大病院であった。
 「なぜ転職を?」私には不思議で仕方のない話であった。少なからず、傍から見れば羨ましい環境で医業をされていたから、である。その疑問に対するW先生の答えは、至って簡潔であった。「医師として、人として、自分のしたい医療をするために、僻地へ行きたいのです。」その発する言葉の端々に表れる意志の強さ、医師としての思いは、何よりも強固で、明確であった。

 先生の依頼を受けて、医療過疎地域を重点に、プライマリ、およびターミナルケアの医師としてのスキルアップも併せて図れる、経験豊富な常駐医師のいる医療機関に打診と交渉を重ねた。それらを繰り返すこと1ヶ月、晴れてとある小規模病院へのご入職となった。年俸については特に何の要望もなかったが、1,000万円から1,450万円にアップした。これは、先生の人柄と将来性に期待していることの表れであろう。先生自身も、院長の純朴な人柄はもちろんのこと、往診・在宅診療などを地道に行ってきた実績と、「あたりまえの事をあたりまえに」という姿勢に感銘を受け、入職を決意された。
 志(こころざし)。今回ほど、この一文字の意味を痛感したコンサルティングはなかった。先生の人生は志すこと、そしてそれを実現することから成り立っている。その中に、私が多少なりとも関われたことは純粋に嬉しい。そして、「ありがとう」と握られた手を忘れないだろう。

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