Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2023年6月号
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COVID-19感染の後遺症

今年(2023年)の5月8日をもって、COVID-19感染症が感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が定める5類となった。それに伴い東京都の「PCR等検査無料化事業」が終了する。大阪は3月末だったけど、どこの都道府県も似たような期間で終了。

3年以上続いたコロナ狂想曲もようやく一段落。もっともCOVID-19感染症自体は消失したわけではなく、まだ感染が続いているし、むしろ増加傾向にあるんじゃないかと思う。気候変動の多い時期だから当然だけど。

統計も全数検査で無くなるからあまり目立たなくなってくるだろうし、世間(主にマスコミか)の関心が薄れて、徐々に以前の日常に戻るのだろうけど。何よりマスクを堂々と外せる事が嬉しい。(がんセンターに行ったら、全員マスクしてた。これはしょうがないか)

5月8日より新制度のCOVID-19ワクチン制度が始まって、年1回接種となったが、まず65歳以上、医療関係者、持病ありの方から。その他の方は9月から接種。ところが、接種券は年齢関係なしで送ってるみたいで、ややこしいことになってる。一応ホームページには載せているが、年配の方はやはり電話だ。で、これが長い!持病ありとか医療関係だって定義が曖昧だし。看護師も電話で手間取って、結局こちらが呼び込みから接種券の処理まで色々とやらなければならない。最盛期の事を思えば楽なもんだが、なかなか解放された感がない。

一方、遺伝子解析の準備は色々進展してて、設置場所の確認や検体採取の方法など。おっと、機器の値段交渉も!額がデカいから民間の零細医療機関にとっては非常に重要ですからね。

ところで、COVID-19感染の後遺症。マスコミにはあまり出ないが、周りに聞くとやっぱり多いみたい。

この病態には以前触れたが、老化細胞の関与などちょっとまとまってなかったので再確認。

この現象は「長期コロナ」または「ポストアキュート・セコエラ・オブSARS-CoV-2感染(PASC)」とも呼ばれている。

一部は、いわゆる「慢性疲労症候群」の症状に似ているが、やはり元々は「呼吸器感染症」なので異なる部分もある。また症状は患者により大きく異なる。

以下主な症状を列挙すると

  1. 1.疲労感: 高頻度で報告されている症状の1つで、極度のやエネルギー不足が長期間続く。
  2. 2.集中力や記憶力の問題: 「ブレインフォグ」とも呼ばこの症状は、思考の難しさ、集中力の欠如、または記憶障害などがある。
  3. 3.睡眠問題: 不眠症または過眠症。
  4. 4.筋肉痛や関節痛: これらの症状はしばしば慢性化する。li>
  5. 5.精神健康問題: 不安、うつ病、ストレス障害(PTSD)の症状が報告されている。
  6. 6.呼吸困難: 努力を伴わない活動でも息切れが起きるこあります。これは肺に直接的なダメージを引き起こす新型コロナウイルス感染症の性質に起因する可能性がある。
  7. 7.心臓の問題: これには心臓病や心臓の炎症が含まれ、らは深刻な健康問題を引き起こす可能性がある。

これらのうち6.の肺に対するウイルスの直接的な攻撃は呼吸器感染症の特徴としてだが、残りは免疫細胞の関与が疑われる。

先に述べた「慢性疲労症候群」や「リッキーガッタ症候群」など免疫異常が関与すると思われる疾患と病態が似ている。

リッキーガッタ症候群とは簡単にまとめると、腸壁バリアは、腸の表面が「上皮細胞」で覆われ、上皮細胞の隙間は、タンパク質からできている「タイトジャンクション」で閉じられている。さらに、上皮細胞からは糖タンパク質や抗菌物質が出ていて、病原菌を寄せ付けないようにしている。

ところが、何かしらの原因(化学物質や薬剤、ストレスや食物のグルテンなど)で上皮細胞の隙間を閉鎖しているタイトジャンクションが緩んでしまうと、腸壁バリアが破たんして隙間ができてしまいます。その隙間から、本来透過することがない老廃物や微生物成分などが体内に入ってしまい、体内の免疫に異常が出て免疫細胞が身体のいろいろな部分を攻撃するという病態。だから、一般的な血液検査ではほとんど異常が出ない。せいぜいALT、ASTや自己抗体の経度上昇ぐらいだ。

その割に症状は先の「長期コロナ」または「ポストアキュート・セコエラ・オブSARS-CoV-2感染(PASC)」と同じように酷いものになる事があるので、担当医から信じてもらえないケースが多い。「このデータでそんなにしんどいの?」慢性疲労症候群や子宮頸がんワクチン後遺症なども同様の状態で、契機が腸管からの燻す侵入でなく、ウイルス感染や、ワクチン接種と異なるだけで、病態は同じだと思う。

確固たる証明がされた訳ではないけれど、概ね、そのように疑われている。実際、ウチでも免疫を調整する「腸内フローラ移植」や「マクロファージの活性化」で長年のコロナの後遺症が治ったりしてるのも、この説の証拠にはなると思っている。ウチのサプリ(薬事申請できないからサプリ扱いなんだけど)だけで治ってしまう人もいてるぐらいだからね。

そこに、以前話した老化細胞とCOVID-19感染症の重症化との関連を付け加えると、更に病態の証明になるのではないだろうか?

こちらも要約すると、まず、COVID-19の特徴として、重症化する感染者はほとんど高齢者で当然「老化細胞」も多い。そして細胞老化関連分泌形質(SASP)の主体は炎症性サイトカインであり、COVID-19が感染すると、生体防御機構として細胞老化が誘導される。すると SASPにより免疫細胞が過剰に活性化され、サイトカインストームを引き起こし免疫細胞が身体中の細胞を攻撃しだし重症化する。

この様にサイトカインストームまで行かなくても、免疫機能に異常を生じさせているとは容易に想像できると思うのだが。

あくまでウチに来た患者さん達から聞いた話だが、巷の「コロナ感染症後遺症外来」は血液検査と漢方の処方だけだと言う。更に安定剤なんかの処方がなされている。保険診療では限界があるのだろうが、もっと「免疫」の関与を疑ってみてはいかがだろうか?

(7月号に続く)

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