Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2023年5月号
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遺伝子解析

前回では今後、マクロバイオーム、特に腸管のマクロバイオームについて遺伝子解析など色々な疾患、特に癌を含めた難病と呼ばれるものとの関係を探求していくことになった事を報告した。

で、ここで皆さんの中には「お前のとこなんかで、遺伝子解析なんかできるんか?」とお想いになった方々もおられると思う。いや、皆さんホントは思ってたでしょ?私だって、大学にいた頃には、個人レベル(まあ、ウチの医療法人なんて個人商店と同じだからね。)でシークエンサー(遺伝子解析装置)なんか買ったり、ましてそれを用いて実際解析してたりするのは雲の上のまた上みたいな感じだったから。

ところが、これが出来るんですよ。次世代シーケンサーって、PCと同じで機能が倍々になり、価格が半分半分になっていってる。とは言え何千万もするんだけど、ひと昔は何億から何十億だったから、そのことを思えば、なんとかなる額になってる。

そして肝心の解析だが、実は「大阪国際がんセンター」との共同研究が正式に決まりました。正式契約まで公表できなかったんだけど、もう正式に調印したから、がんセンターから公表のお許しが出ました。

元々は、先方の教授から「先生のところ、腸内フローラ移植されてるけど。遺伝子解析とかどうされてます?」と聞かれたので、「どっかのベンチャー企業とでも組もうかなと思ってます。」って答えたら、「イヤ、絶対ご自分でやられた方がいいですよ。」と。「ベンチャー企業でもろくに出来てないところが殆どだし、第一マクロバイオームは今、一番ホットで文科省なんかも膨大な遺伝子データーベースがあるけど、実際の臨床と全く結びついてないと。世界的にもマクロバイオームの遺伝子情報と臨床データーが結びついてるケースは殆どないから、是非やりなさい。」と。そこで、次世代シーケンサーや解析の達人の研究者が、今度がんセンターに来るなどのお話を伺って、「エーそうなんですか!なんかやれそう。」となった訳ですよ。

もちろん紆余曲折はありましたよ。ご想像通り、主に身内からで、対外的には非常に受けが良かったんだから。曰く「また。一円にもならんことに大金突っ込んで!」「そんなことやってる暇があったら、もっと稼げ!」実際は、もう少し優しく、長ったらしく責められたんですけどね。かいつまんで言うと、こういう事ですわ。

「ええーい!何を俗っぽいこと言ってんねん。これで、多くの難病が治る様になるかもしれんのだぞ!。それにもし、世界の三大科学誌のCNSに論文が載ったらどうよ?」で押し切った。意外とすんなりと受け入れられたのは、やっぱり皆んな同じ様に思ってる所があるんだろうな。本音では「論文載るなら、セカンドかサードネームでも良いから。CNSでなくてもImpact factor 2桁なら良いし。」と情けないんだが、この事には触れず、あくまで正論(?)で押し切った。

ところで、実際、遺伝子の解析には国際的なマクロバイオームの遺伝子データーベースとアクセスするのに、プログラム組んでスーパーコンピューターとやり取りしたりするんだって。その為、研究技師さんにMac Studioをねだられたけど。確かに今頃のMacの最高のCPUやらGPUやらメモリーもMAXで、自分の買う時は「もったいないけど、メモリーもうちょっと増やそうかな?」なんて結構悩むのに、今回の指定のスペックは容赦なしに全てMAX!。「こんな高性能どうするんだ!?」と思いながらポチってた。ある意味、超大人買いで気分が良かったけど。自分ならこんな構成絶対やらないだろうからね。実際こう思ったのは私だけじゃなくて、Appleから電話かかってきて「ホントにいいんですか?」って。

イヤほんとの話。盛ってません。初めAppleが何の要件か分からなかったんだから。

実際、8Kの動画編集したってこんなスペック必要ないだろうし。まして、一般のクリニックからの注文だから確認されたんだろうけど。

実際開始まで、機械の搬入やこちらの技師の教育。さらに大変なのが、人体の検体(人のマクロバイオーム)扱う為の倫理委員会審査用の書類など、まだまだ山ありで、まあ大変。夏頃に動かせれば良いかなと思ってるけど、手続きってほんと大変。やっぱり厳しい相手だから仕方ないけどね。

この様に、紆余曲折ありながら徐々にプロジェクトは進んでます。

また、ここで報告できる事が出来次第、随時報告していきますね。

(6月号に続く)

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