中川 泰一 院長
- 1988年
- 関西医科大学卒業
- 1995年
- 関西医科大学大学院博士課程修了
- 1995年
- 関西医科大学附属病院勤務
- 2006年
- ときわ病院院長就任
- 2016年
- 現職
この連載も何と60回目。免疫や再生医療の事や、主にコロナ関係が多いが日常診療の徒然などを書き連ねてきた。今回は総括の意味も込めて私の癌治療に対する考え方を整理しておきたいと思う。
ダイエットや若返りなんかもやってますけど、一応これが本業だからね。まずはこれ。
一般に癌の治療となると、Stage分類と癌の組織型が問題になる。TMN分類はStage分類の参考だからね。もちろん基本概念が臓器別だから、原発が何処かが大きな問題となる。
この原発臓器、Stage、組織型によって標準的な治療法が決まっている。Stage Iなら大体が手術だろうけど、最近は局所療法も進んでいるからこちらの選択になる事も多い。例えば肝臓癌ならラジオ波による焼灼術。胃癌で粘膜内なら内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)。もちろん、組織型や胃癌なら潰瘍の大きさなんかも治療選択の基準になってくる。これは転移の可能性の有無で、局所療法で良いのか、拡大手術の方が良いのか判断するからなのだけど。だから他臓器に転移しているStageIVはまず手術は行わないで、ほぼ化学療法になる。つまり癌治療は事細かに治療の選択基準が決まっている。
ただし、患者さん一人一人、癌の状態や全身状態、年齢、体力、気力など様々なので、その辺は担当医の意見の分かれる所だ。ただ、一般的な傾向として、外科の先生はやっぱり切りたがるし、放射線科の先生は放射線治療、化学療法の先生は化学療法と自分の専門分野に持ってくるのは医者のサガとして致し方のないところかな。私たちも肝臓癌に対して経皮的マイクロウエーブ焼灼術(PMCT)を主張し、外科の先生方は手術を主張していたし。
この様に現在では各種癌に対しての標準治療が確立している。これは抗癌剤の種類などは異なれど、世界的に似たり寄ったりだ。
別にこの標準療法を真っ向から否定しようと言う訳で無くて(抗癌剤は否定する時もあるけれど。)、これで治らないから免疫などの治療を追加すると考えてもらった方が良い。
癌の治療には
1.見えている癌(つまり画像検査で引っ掛かる癌)は手術や放射線治療で潰す。
2.見えてない癌(画像に引っ掛からない)に対しては免疫療法など。
3.さらに癌が発生してこない様にする。
癌の治療にはこの3段階が必要だ。現在の癌治療の標準的な考えとしては1.の画像で捉えられている癌をどう潰すか。つまり手術で切除するか、放射線で潰すかだ。
2.の見えてない癌に対してはほぼ抗癌剤一択。したがって手術や放射線療法の適応外となったStageIVなどの画像で捉えている癌に対してはプロトコールがある。一方、捉えられていない癌、手術後の転移の予防なんかで行う抗癌剤投与は副作用のことも有り強力にはやらない。
3.の癌の発生、再発を防ぐに関しては何ら対策を立てていない。と言うかこのような概念自体がない。
この違いは何だろう?そもそも癌の捉え方の違いだと思う。現在の癌治療は基本的に臓器別で捉える。だから、原発がどこかで対処法を決める。
診断は基本的に一元的に判断するので、2箇所癌が見つかったら、どちらが原発でどちらが転移かを考える。癌によって転移しやすい臓器があるので大体見当はつく。後は腫瘍マーカーや病理組織で判断するわけだ。2種類の癌が同時に発生するDouble Cancerもあるが、頻度としては低い。
一方、免疫的な考えでいくと癌は全身疾患で、1箇所に癌が発生すると言うことは、同一臓器、他臓器に関わらず、どこも癌が発生しやすい状態であるといえる。
どの臓器に発生するかのリスクは、もちろん個人個人によって異なる。遺伝子検査などでどの癌が発生しやすいリスクがあるかがわかるが、癌の遺伝子があるからと言って必ずしも癌が発生する訳では無い。疾患は先天的な要因と後天的な要因が重なって発症する。癌は、特殊な小児癌などを除けば、後天的要因が比較的大きい疾患だと思う。つまり、究極の生活習慣病と言うことだ。例えば、肺がんのリスク遺伝子がある人が毎日タバコ60本吸ってれば、まあ肺癌になるでしょう?この様な発癌の後天的なリスクファクターは結構解っていて、胃癌ならピロリ菌感染、肝臓癌ならC型肝炎ウイルス感染などだ。
これらの個々の特異的なリスクファクターはもちろん回避すべきだが、癌のもっと根本的なリスクファクターは高血糖状態と慢性炎症状態だ。
次回はこの辺りを掘り下げていこうと思う。
(9月号に続く)
2022.9.10 掲載 © LinkStaff
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