Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2022年2月号
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若返りの治療Ⅱ

 1月になってから医療関係者の第3回目新型コロナワクチン接種が始まって、ウチにもぼちぼち来られてる。2月からは65歳以上の方が開始になるので、また暫くの間はワクチン漬けになりそうだ。更にPCR検査も始めたので、なんかコロナ漬けみたいに思われるけど、そろそろコロナネタも飽きてきたのでこの辺りのくだりはそのうちに。結構面白いですけどね。

 ところで、以前「若返り」について書いた。今回は再びこの「若返り」について。ウチでNMN(nicotinamide mononucleotide:ニコチナミド・モノヌクレオチド)を点滴投与した方の前後のテロメアの長さを測定する試験を行なっていたのだが、第一陣の結果が出た。実は昨年の10月ごろには出ていたのだが、色々と取り込んでて、続きがまだ出来ていない。本来、もっと症例数を増やしてから統計取ろうと思っているのだが。取り敢えず8例なのだが、6例にテロメア長の伸張が見られた。所謂「テロメア年齢」と言う指標で言うと著しい方で20歳ほど若返った事になる。効果の出なかった方で逆に2~3歳老けた方も居られたが概ね「効果アリ」だと思う。ただ、対照群が無いなど学術的には証明できる段階ではないので詳しい事はデーターが整理出来たらお知らせしたいと思う。

 この「若返り」についてだが、「老化と癌化とは表裏一体になるはず。」と言っていた事を覚えておられるだろうか?

 先程のNMN投与も若返り遺伝子と言われるサーチュイン(sirtuin)遺伝子を活性化して老化の過程を逆回転させる目的で行われている。

 「若返り」と「老化」の為にはサーチュイン(sirtuin)遺伝子の活性化と共に「老化細胞」の除去が必要と言われている。ではこの老化細胞とは何者だろう?

 ここで以前

 「本当に自然の摂理である「老化」に整合性が無いのだろうか? 細胞の「不老」つまり「不死」というと嫌でも「癌細胞」が思い浮かぶ。また、細胞の「若返り」ということは「幹細胞」の分化の過程の逆行という事になる。」と疑問を呈した。

 細胞は一般的に複製回数が増えれば複写ミスにより機能が落ちてくる。その為細胞が死んでいくようプログラミングされているのだが、癌細胞はこのプログラミング死(アポトーシス)が効かなくなって無限に増殖してしまう。その為、例えば肝細胞なら肝臓の機能を保つような細胞本来の機能が失われてしまう。

 若返りないし不老とは大雑把に言って、細胞が元の機能を有したまま増殖していく事で、この間にはどうしても複写ミスなどによって癌細胞が発生する率が上がってしまう。だから老化と癌化とは表裏一体なのだ。

 実は近年、この疑問の解答として、老化細胞がこの癌細胞の予防策として機能していると言う説が提唱されている。そして老化細胞とはそれ以上細胞分裂せず、そのままの状態で存在し身体の中でこの老化細胞が増えていくことで、身体全体が老化していくと言われている。

 つまり、癌化しそうな細胞を老化細胞として増殖を止めてしまい、癌化を防いでいると言うのだ。これが身体が「老化」する理由の一つと考えられる。もっとも他にも色々な理由はあるだろうけど、これも立派な理由になると思う。

 そうすると「若返り」ないし「不老」のためにはこの出来てしまった「老化細胞」を取り除けばよいと言う事になる。老化細胞の発生自体は癌の抑止システムなので止めるわけにはいかない。要は癌化を阻止し蓄積した老化細胞を取り除けばいいのだ。

 この方法として、注目されているのが、老化細胞が生存するために必要な酵素(GLS-1)をブロックすることでこれを死滅させる方法だ。

 次回はこの辺りを掘り下げていきたい。

(3月号に続く)

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