Dr.中川泰一の医者が知らない医療の話(毎月10日掲載)
中川 泰一 院長

中川 泰一 院長

1988年
関西医科大学卒業
1995年
関西医科大学大学院博士課程修了
1995年
関西医科大学附属病院勤務
2006年
ときわ病院院長就任
2016年
現職
2019年7月号
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CAR(chimeric antigen receptor)-T療法

 今回はちょっと趣旨を変えて、トレンディーな話題を。この度、保険収載された「免疫療法」であるCAR(chimeric antigen receptor)-T療法について。

 実は、先日中国の研究機関と共同研究並び顧問の契約をしたのだが、その時あちらの研究者(中国人だけどアメリカなどの研究室で実績のある方ばかり。)の発表が気になったのだ。どこかは後で。

 さて、CAR-Tだ。先ず、キメラ(chimera)とは一つの細胞内に複数の遺伝子を含んだものの事を言う。CAR(キメラ抗原受容体)とは,抗体の抗原結合部位と,T細 胞活性化レセプター(TCR)の細胞内ドメインを遺伝子組み換え技術を用いて結合させたものだ。 そして、このCAR 遺伝子を、遺伝子導入技術によってT細胞に導入したものが CAR-T細胞だ。

 CARを導入されたT細胞は標的抗原を認識すると、直接TCR 細胞内ドメインが刺激される為、標的抗原に対して強力で特異的な免疫反応が起こる。

 そもそも、なぜCARの開発が進められたかと言うと、一般的に、体外で免疫細胞を培養し体内に戻す治療は行われているが、免疫細胞としての反応はもう一つの場合が多い。一方、強力な免疫細胞として腫瘍関連抗原(TAA : tumor-associated antigens)に特異的なT細 胞がある。この TAA特異的T細胞を増幅し、患者体内に戻す事は以前から行われていた。しかしながら特異的T細胞は極めて少数のため製剤とするのは難しい。また、TAAは免疫原性が低い上に、腫 瘍細胞はHLA(白血球抗原)分子の発現が低い為、T細胞の活性化 や増殖が阻害されやすい。このような弱点を解決するため、1980年代半ばから、癌抗原特異的抗体とT細胞を人工的に組み合わせたキメラ抗原受容体の開発が進められていたのだ。

 ではこの強力なCAR-Tだが、実はT細胞を使う限り、大きな問題が二つある。一つは拒絶反応が起きると言う事だ。GVHDや自己免疫疾患を誘発する危険性がある。T細胞は正常細胞も攻撃してしまうのでこれらのリスクが付きまとうのだ。もう一つはサイトカイン放出症候群を発症し易く、下手すると多臓器不 全で命に関わる。

 これらのことからCAR-T療法は自家細胞、つまり患者さん本人の細胞を用いるものがほとんどだ。他人(他家)のT細胞 を使うとGVHDや自己免疫疾患(この場合は他家の免疫細胞に正常細胞が攻撃されている場合も含む。)を発症するリスクが非常に高くなるからだ。

 そして更に、CAR-Tの最大の弱点は、基本的にT細胞はほとんど癌細胞を認識・攻撃しないので、CAR技術によって導入された遺伝子の産物が認識する標的 物質を目印に相手の細胞を攻撃させているので、標的物質を発現している細胞以外は攻撃しな い。つまり、現在認可されている CD19 CAR-T製剤はCD19を発現する細胞は癌細胞であろうと正常細胞であろうと両方を攻撃するが、癌細胞であってもCD19を発現していなければ全く攻撃しない。

 確かに、CD19 CAR-T製剤はB細胞性腫瘍に対して劇的 な治療効果をもたらす。実際、2017年に米国食品医薬品局(FDA)はCD19 CAR-T製剤を難治B細胞性急性リンパ 芽球性白血病(ALL)と難治びまん性大細胞型 B細胞リンパ腫(DLBCL)を対象に認可をおろした。ただ、非常に限られた癌のみが対象であるのと、某有名研究所の研究者と話していると米国では死亡事例が相次いだとの事だ。しかも、先日日本で保険収載された治療費が何と3,349万円!噂では8,000万円ぐらいで出していたらしい。免疫治療否定派の先生方どうするよ?

 今回は紙面が尽きたので、次回本題に!

(8月号に続く)

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