神津 仁 院長

神津 仁 院長

1999年
世田谷区医師会副会長就任
2000年
世田谷区医師会内科医会会長就任
2003年
日本臨床内科医会理事就任
2004年
日本医師会代議員就任
2006年
NPO法人全国在宅医療推進協会理事長就任
2009年
昭和大学客員教授就任
1950年
長野県生まれ、幼少より世田谷区在住。
1977年
日本大学医学部卒(学生時代はヨット部主将、
運動部主将会議議長、学生会会長)
第一内科入局後、1980年神経学教室へ。
医局長・病棟医長・教育医長を長年勤める。
1988年
米国留学(ハーネマン大学:フェロー、ルイジアナ州立大学:インストラクター)
1991年
特定医療法人 佐々木病院内科部長就任。
1993年
神津内科クリニック開業。
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「はじめてのThailand~謎の飲み物を探して~(Ⅰ)」

 「これ、コーヒーじゃないみたい、香りが何もしない」と、妻がいうのでよく見てみると、テーブルの上に置かれたその濃紺の飲み物は、我々には見当もつかないものだった。


 その夜は、バンコクでも有名な高級レストラン「Baan Khanitha」に行く予定で、朝からホテルのコンシェルジェを通して予約を入れてあった。午後6時の予定だったが、市内観光の時間がオーバーして10分ほど遅れてしまった。街中でタクシーを拾うと「ぼられる」と観光ガイドに書いてあったので、わざわざホテルに帰ってからあたふたとタクシーに乗った。タクシーメーターが118とかなんとか書いてあったので、運転手に120バーツほど払ったが、帰りはホテルまで45バーツだったから、なんのことはない、結局は大分ぼられたことになる。


 汗をかきながら辿り着いて、フロントマネージャーに我々が予約していることを伝えると、メインフロアの窓際の席に通してくれた。
「お飲み物は何にしますか?」とウェイターが聞くので、私はシンガポールスリング、妻はフレッシュミックスジュースをもらうことにした。しばらくして持ってきた二つの飲み物以外に、この濃紺の飲み物があった。「コーヒーなんじゃない?」という会話の後に、「これ、コーヒーじゃないみたい」という妻の感想が続いた。
「これは何という飲み物ですか?」と聞くと、「タイのハーブティです」とのこと。「健康に良いですよ」というので、「買うことが出来ますか?」と聞くと、「Yes, Yes」と笑顔で応えてくれた。よし、このハーブティを探してみよう、そう考えて、翌日の買い物の際に買うことに決めた。


 翌朝、ホテルの向かいにTOPSというスーパーマーケットがあるので、まずはそこにお土産品を買いに行くことにした。どこの国でも、最近はスーパーマーケットといえば品ぞろえが豊富だ。東南アジアの店ではどこもそのようだが、日本の食品も多く陳列されていて、パッケージに日本語がそのまま付いているものも多く売られていた。昨日のタイレストランで出された飲み物がどこかにあるはずだと探してみたが、一向に見当たらない。店員に聞いてみたが、名前が分からないので、全く見当違いのものを教えてくれた。簡単に手に入ると思っていたが、外国での買い物はそう上手くはいかないのだ。
 とりあえず土産品の候補になるものを少し買ってみて、味を確かめてみることにした。その際一度ホテルへ帰って、Wi-Fi環境のもとで、インターネットで下調べをしてからもう一度タイのハーブティという紫色の飲み物を探しに行くことにした。


 ホテルのロビーでiPhoneを使い、ネットで「タイのハーブティ、紫色の飲み物」と検索ワードを入れると、以下のページがヒットした。


 なになに、アンチエイジング? この言葉を読んで、俄然興味が沸いた。内容を読んでみると、「バンコクのオフィス街でカフェに入ると、タイのキャリア女性があざやかなブルーのドリンクを飲んでいるのをしばしば目にします」つまり、タイのインテリ層にはかなりポピュラーな飲み物らしい。


 「いつまでも若く美しくいられるということで、タイの30~40代の女性層に特に好まれているようです」
「アンチャンの花だけに含まれる成分には、抗血栓、血栓溶解をする成分が含まれる。タイの伝統医学では、心疾患、脳血管障害、高脂血症等に用いられる。アンチャンは実は、血液もサラサラにしてくれる現代人にとってはすばらしいハーブなのです」
「ブルーベリーに含まれることでもおなじみのアントシアニンは、高い抗酸化作用があるため、細胞の老化を防ぎアンチエイジングにも効果を発揮。眼精疲労を即効でやわらげるパワーもあるので、PCワークで目が疲れた時にはアンチャンティーでブレイクを入れるとよいかもしれません」


 なるほど、この青い飲み物が私をこれだけ惹きつけたのは、こうした素晴らしい力を秘め、人を健康にするものだったからだと合点がいった。そして、この青い飲み物の名前が遂に分かった。タイ語でAnchan(アンチャン)、英語でButterfly pea(バタフライ・ピー)、学名をClitoria ternatea(クリトリア・テルナテア)という、熱帯アジア原産マメ科の蔓(つる)性植物の花を、乾燥しハーブティとして飲用したものなのだ。


 鮮やかで目が覚めるような青色と貝殻のような形をした花の様子が「蝶」に似ていることから、その名前が付いたという。この青色を構成している抗酸化物質ポリフェノールの一種「アントシアニン」を主成分として、美容と健康維持のための有効成分が豊富に含まれており、優れた薬効ハーブとして利用されている。タイではお茶、ジュース、カクテルやソーダとのブレンド、料理、天然着色料としてお菓子やご飯などの色付けなどに用いられ、石鹸やシャンプーなどスキンケア製品としても利用されているらしい。


「乾燥させた花にお湯を注ぐと、水色がインディゴブルー(藍色)に染まる。ライムやレモンを絞り入れると、アントシアニン色素がクエン酸に反応して紫色に変化し、混ぜるもの、水温や光の色とアングルによっても色彩が違って見える。タイでよく見かける飲み方は、たっぷりの砂糖とライム汁と氷を入れて作る紫色のアイスティー」との説明を読み、早速「アンチャン」を探しに行くことにした。


■バンコクの交通事情
 バンコクの道路交通事情は、他の東南アジアの都市と同じように渋滞が日常的でかなり悪い。空いていれば10分程度で行く道が、1時間、1時間半とかかるので、車での移動はかなり大変だ。2013年には、イギリスのBBCが世界一の渋滞都市と認定したほどだ。多くの寺院と古い町並みが残るバンコクは、終戦後の焼け野原から道路計画を立てた日本のように、幹線道路を一から整備するというわけにはいかなかっただろう。庶民の足としては、細い道をトゥクトゥクという三輪車や二人乗り三人乗りするバイクタクシーなどが幅を利かせていて、車の保有台数も多くはなかったから、従来の道路環境で十分賄えたのだろうと思う。


タイでは、1980年代から高速道路の整備が始まった。いわゆる国家戦略としての経済・流通のためのインフラ整備の一つだ。電力、道路、水道、鉄道、空路それぞれに、ASEANのリーダー国としてかなりの国家予算を注ぎこんでいる。
 2013年には輸送インフラを強化し、ASEAN地域での連結性を向上させるために、2020年までに総額2兆バーツ( 2013年2月の計画額:日本円で約5兆7,761億円)を超える大型インフラ開発計画を発表した。しかし、タイの貧富の格差は大きく、国民の2割を占める富裕層が、国民所得の55%を占有している。都市部と田舎の所得格差も大きく、2010年で農家の平均月収は4,234バーツ(約1万600円)と、非農業の1万534バーツ(約2万6,200円)の4割程度にとどまっている。しかし、日本のように、勉強してがんばって出世しようという考えを持つ人は少なくて、国民のほとんどが仏教徒ということから、現世は今の生活に満足し、タンブン(徳を積む)をして来世に備える人がほとんどだから、この現状を変えていく力にはなりにくい。その上、不動産税、贈与税、相続税といった資産課税がないので、金持ちはますます金を残すことが出来る。もちろん、富裕層もその資力に応じて喜捨寄進したりしているのだが、放っておけばその差は広がっていく社会構造になってしまっている。
 バンコク首都圏だけで全国電力消費量の70%を消費しているというから、そこに集まる資本は、外資系商社や大企業が発展するのに必要なインフラ整備に偏ってしまっているようだ。


 庶民の求める利便性や安心安全な都市づくり、地域づくりが、タイでは後回しになっていて、そのほんの一部のほころびが、バンコクの渋滞都市世界1位という汚名に表れているように思える。2011年9月から始まった「マイカー減税」も、トヨタや日産の販売戦略を後押しして、さらに渋滞を加速させているようだ。
 経済優先の政策と、新自由主義による国境・文化を超えた資本のグローバル化、私利私欲化を加速することが、はたしてこの国の人々にとって良いことなのか。そう思いながら、一流ブランドの商品を並べた煌びやかな新しいモールを見上げていた。


<参考資料>
1) 何それ、青すぎる!タイのアンチエイジングな飲み物とは? :http://matome.naver.jp/odai/2139069908460609901
2) ロンナムチャチェンマイ~チェンマイノ茶屋「バタフライピー(蝶豆・アンチャン)ハーブティ:http://www.wisebk.com/3695
3) バンコクは渋滞都市、世界1位の理由とは?:https://ja.wikipedia.org/wiki/オレオカンタール
4) タイ国インフラ・マネイジメント情報収集・確認調査ファイナルレポート(JICA)2015:http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12234241_02.pdf
5) タイの格差は世界最凶レベル!総所得の5割を富裕層が手にする社会(ucci-h):http://kinbricksnow.com/archives/51763586.html

2016.9.1 掲載 (C)LinkStaff

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