「ノツハラサン、オキテクダサイ」。
カン高い声で呼ばれて、眠い眼をゆっくりと開くと、そこには顔を近付けてやさしく笑っているティナの姿があった。
「何だあんたか・・・」。
「ナンダジャナイデショ、キョウハシュジュツノヒヨ!」。
ティナは、フィリピン人の看護婦で、日本に出稼ぎに来ているのだ。本国ではICUの主任をしていて、かなりのベテランだったが、米国の大手私的保険機構が彼女の勤めていた病院の買収を行い、不採算部門の救急医療を潰して解雇されてしまったために、日本に来たのだった。
最近では、アジアの医療関係者の中での日本語熱は相当のもので、簡単な日常会話は問題なく交わすことが出来る。これも、日本が広島で2020年に行ったウルグアイラウンドⅡにより、政府の第三者機関が認定する認定証を持っていれば、日本の国家試験を受験しなくても、医師以外の医療従事者の積極的な交流が可能になったため、賃金の高い日本へとアジア各国の看護婦、ヘルパーなどが流入したためである。
「さあ、どうするんだい、君の言うことを聞くしかないからな」。
「ソウソウ、オリコウサンニスル、イイコトネ」。
「手術ロボットの調子はどうなんだい? この間の朝月新聞には、プログラムのミスでやたらとレーザーをぶっぱなして、患者を死ぬ目に合わせたそうじゃないか・・・」。
「ソウネ、ノツハラサンナラロボットモオトナシクスルネ」。
「ロボットも俺がSE(system engineer)だってことを知っているのか?」。
「シラナイトオモウネ。ダケドノツハラサン、キョウハアメリカジンノRobertセンセヨ」。
「なんで! ヘルニアなんて簡単な手術を何でロボットにやらせないんだ。俺はロボットの代金しか出さんからな。外科医がやったら人件費で三倍は取られるぞ」。
「ウウン、キョウハネ、ニホンノゲカセンセイニオシエルノデ、タダダヨ」。
「俺は聞いていないぞ、そんなこと!」。
「ノツハラサン、キノウノヨル、ソコノリッタイテレビニインチョウセンセイデタデショ。ソシテ、コピーガトドイテ、ホラ、ココニサインアルヨ」。
「・・・」。
「タダデモ、ニホンノゲカセンセイ、カズコナシテイナイカラジカンカカルカモ。アメリカジンノセンセ、サンジュウバイケイケンアル」。
「そうだよな、移植にしたって百倍違うからな、数が」。
「デモネ、キョウノニホンジン、ワタシノオトモダチ、ダイジョブヨ」。
「ほほう、あんたの彼氏かね?」。
「シラナイヨ! ハヤクチ○ポダシナ、クダイレッカラ!」。
「おいおい、怖いねどうも」。 |