東北大学大規模ワクチン接種センターはどういった経緯で設置されることになったのですか。
設置の経緯としては2021年5月10日に宮城県と仙台市から依頼があったことがきっかけです。まず、これは集団接種センターとは違い、大規模接種センターだということです。どこかの会場で次々にワクチン接種するには会場に制約があり、医療施設や体育館のような大きな会場が必要です。しかし、医療施設以外の大きな場所でワクチン接種をするとなると、市町村単位にしないといけないのですね。複数の市町村の住民の方々を対象としたワクチン接種ができなくなります。例えば、仙台市が集団接種センターを作ったとすると、対象は仙台市民だけとなり、隣接している名取市の市民の方々には提供できないのです。それでは効果がないということで、宮城県と仙台市が協力し、東北大学に大規模接種センターをしてくれという依頼があったわけです。しかし、色々とややこしい法律の問題がありました。
提供元:東北大学病院
それをどのようにクリアされたのですか。
東北大学病院は医療施設ですが、スペース的にも大規模接種センターを設置することはできませんし、どこかの病院でするといっても、それも難しいです。そこで宮城県が仙台駅前にあるヨドバシカメラマルチメディア仙台の4階を借り、そこを会場としました。その場所を東北大学診療所として届けると、テンポラリーな医療施設になります。そうなると、仙台市民だけでなく、全ての宮城県民に接種することが可能になりました。そして、5月24日にスタートしたのです。その時期は医療体制に余裕がありましたので、ワクチン接種を推進すべきだという学内のモチベーションも高かったです。
行政とはどのように仕事を分担されたのですか。
予約の取り方などの事務的なことは宮城県と仙台市がバックアップしてくれたので、私たちの仕事は医師、薬剤師の派遣と、会場にいらした方が入ってから出るまでの業務フローを考えることで、全てマニュアルを作っていきました。業務フローにはワクチン接種の適応外について、スタッフの休み時間の取り方、スタッフのグループ分けなど、細かいものも含みます。私たちはそうしたマニュアルを宮城県と一緒に走りながら作っていきました。
東北大学大規模ワクチン接種センターはどのような規模ですか。
当初は予診と接種のブースの適切な数が全く分からず、1対2ぐらいだと渋滞しないかなと考えたのです。このバランスが崩れたら、渋滞しますからね。それでやってみると、1対1.5が流れがいいということが分かり、2対3の予診10ブース、接種15ブースでスタートすることにしました。このほか、受付、予診票記入コーナー、予診ブース、ワクチンを調整するスペース、経過観察スペース、救護室を作りました。スタート直後は1日の日中に2100件の接種を行いました。
医師をどのように集められたのですか。
東北大学病院の全ての診療科に対し、一斉に募集をかけました。そのときに「行けたら、行きます」というのはお断りとしました。そこで「○日に来られますか」ではなく、「第○△曜日に来られますか」という聞き方をしたところ、「第2、第4水曜日は出します」、「第1金曜日だけ出します」といった返事が来ました。我々医師はレギュラーなスケジュールを組むときにそういう組み方をします。教授会やカンファレンス、大学での講義、外部の病院に勤務や当直に行く日は全て「第○△曜日」なのです。そういう聞き方をするといいということを知っていたので、それで募集してみると、第○△曜日は何人来るのだという集計ができます。これで最終的には37診療科が参加してくれることになりました。
提供元:東北大学病院
夜間の接種もされたのですよね。
当初は無休の朝9時から夕方5時まででしたが、7月19日からは夜間の接種も始めました。仕事をしている人や学生は日中に接種できないということで、夜間も追加になり、夜9時までの体制にしたのです。そのため、予診12ブース、接種17ブースに増やし、最大で1日に5000件の接種をする仕組みにしました。10月になると未接種の方が減ってきたので、ブースを減らしました。11月12日で一旦終了しましたが、それまで51万6,513件の接種を行いました。一人の受診者が会場に入ってから出ていくまでの業務フローを私たちが考え、予約の方法などは宮城県と仙台市が考えましたが、仙台市は途中から集団接種をすることになったので、こちらは宮城県の主導となりました。
先生のポジションはどういったものですか。
副センター長です。私は大学では医学研究科長補佐、大学病院では病院長補佐といった肩書がありますが、一教授にすぎません。実務的なことをしているからと言ってセンター長になると、東北大学病院には医師だけで1000人弱いるわけですから、「何で石井なんだ」という声が出かねません。それを見越されたのか、冨永悌二病院長が「石井ちゃん、センター長をやりたい?」と聞いてこられました。私が「別にどちらでも大丈夫です。肩書は何でもいいです」と言ったところ、センター長は張替秀郎副院長に決まりました。ドライブスルー型PCR検査外来は基本的には私どもの教室と救急科の先生方にお手伝いいただくことで何とかなりましたが、この東北大学大規模ワクチン接種センターやホテルでの医療支援は様々な診療科や看護部のご協力をいただかないといけないし、団結が求められます。張替教授は経営担当の副院長ですし、血液・リウマチ膠原病内科の教授として、内科系7診療科の取りまとめもされています。その方がトップに収まることで、座りのいい組織になりました。内科の人たちもまとまりますし、副院長ですから病院も「協力します」ということになります。冨永病院長のバランス感覚は総理大臣が内閣を組織するみたいだなと感心しましたね(笑)。張替先生は私の3学年上の方で、普段から仕事上のアドバイスをいただいたり、プライベートでも仲良くさせていただいています。私はこれで裏方と言いますか、実務や調整に力を入れられることになりました。
提供元:東北大学病院
(2月号に続く)