クリニックの窓教えて、開業医のホント

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日吉メディカルクリニック

 神奈川県横浜市港北区日吉は慶應義塾大学日吉キャンパスがある街として知られている。日吉キャンパスは慶應義塾の創立75周年記念事業として1934年に開設されたもので、東急東横線、目黒線、横浜市営地下鉄グリーンラインの日吉駅の東側に隣接している。駅前から銀杏並木が続き、左右には大学の校舎が立ち並んでいる。
 日吉メディカルクリニックはその並木道に入ってすぐの右側に建つ協生館の1階にあるクリニックである。髙田哲也院長はクリニック開設時は理事として参画していたが、2013年に理事長に就任した。日吉メディカルクリニックでは「1院長多診制」を掲げ、内科、膠原病・リウマチ科、消化器科、整形外科、耳鼻咽喉科を標榜して、日帰り手術にも力を入れている。
 今月は日吉メディカルクリニックの髙田哲也院長にお話を伺った。

髙田 哲也 院長

髙田 哲也 院長プロフィール

 1975年に神奈川県横浜市で生まれる。2000年に慶應義塾大学を卒業後、慶應義塾大学内科学教室に入局する。2002年に慶應義塾大学大学院で血液・感染・リウマチ内科(当時)を専攻する。2009年に日吉メディカルクリニックの開業に際し、医療法人社団なかよし会の理事として参画する。2011年に日吉メディカルクリニック院長に就任する。2013年に日吉メディカルクリニック理事長に就任する。
医療法人社団こうかん会理事、慶應義塾大学医学部内科学教室リウマチ内科特任助教を兼任する。
日本医師会認定産業医など。日本内科学会、日本リウマチ学会、日本臨床免疫学会にも所属する。

開業に至るまで

◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
 父は会社を経営しており、私は一人息子だったので、誰からも2代目だと思われていましたが、レールに乗るのは嫌だなと感じていました。中学生の頃から生物学が好きで、究極の生物学はヒトだと思い、未知のものに興味を持っていたんです。一方で、人と付き合ったり、関わったりすることも好きでしたので、腹を割って接していける医師の仕事をしたいと考えるようになったのがきっかけです。高校1年生の半ばに医学部に行こうと決めました。


◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
 勉強はあまりしなかったです(笑)。しかし、医事振興会というサークルに入り、医療過疎地での地域医療に携わっていました。夏休みは長野県の上水内郡小川村(当時)に2週間ほど滞在し、健康教室や家庭訪問などのボランティアを行っていました。


◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
 ターミナルケアに興味があり、日野原重明先生の本を読んだり、柏木哲夫先生の講演会などによく足を運んでいましたし、山崎章郎先生がいらっしゃるホスピスに伺ったりしました。ボランティアのほか、テニスもしていました。


◆ 専門を内科に決めたのはどんな理由からですか。
 内科、小児科、産婦人科の間で迷っていました。6年生の12月が締め切りだったのですが、ぎりぎりまでかかりましたね。慶應の小児科は有名な医局ですが、優秀な人が行くところなので諦めました(笑)。産婦人科に憧れたのは内分泌などの内科的なことと手術などの外科的なところの両方ができることにあったのですが、女性しか診られないのが残念で止めました。そこで、やはり何でも診ることができる内科にしました。


◆ その中でリウマチを専攻されたのはどうしてですか。
 慶應の内科の特徴は2年間の全科ローテートでした。血液内科とリウマチ科はセットになっていたのですが、1年目で研修したときはリウマチ科には行くつもりはありませんでした。亡くなる患者さんが多い血液内科も辛かったのです。2年目に東京都立大塚病院に4カ月ほど行き、リウマチと膠原病を勉強したのですが、そのときの指導医の先生のご指導をきっかけに、リウマチ科を専攻しようと決めました。私には医事振興会での経験から全身を診ることのできる医師になりたいという思いがありましたので、リウマチ科は全身を診られるのが良かったです。都立大塚病院の指導医は稲田進一先生で、今は私どものクリニックに週1回、いらっしゃるんですよ。


◆ 大学病院に長くいらっしゃったのですね。
 慶應の内科は卒後3、4年目で関連病院に行くのですが、私は大学院に入ったので、そのまま残りました。大学院で研究もしながら、研修医や学生指導、そして臨床も行っていました。


◆ 研究はどのようなテーマでなさっていたのですか。
 多発性筋炎です。当時の国立箱根病院に専門の先生がいらっしゃったので、箱根でご指導を受けました。臨床をしながらの研究生活でしたので、時間的な拘束があったのが難しかったです。


◆ 勤務医時代を振り返って、いかがですか。
 私はずっと若手でしたので、外来は補助で、病棟メインの勤務医生活でした。リウマチ治療はこの10年、20年で大きな変化があり、改善が見えてくる過渡期でしたので、治験にも携わることができ、大学病院にいることは楽しかったです。ただ、研修医時代は「犬、雑巾、研修医」と呼ばれていた頃でしたので、過酷でしたし、毎日、勤務時間を超えるのが当たり前の世界で働き過ぎていました。私だけでなく、多くの医師が仕事に見合う報酬があるわけでもなく、自己犠牲のもとで働いていました。


開業の契機・理由

◆ 継承された経緯をお聞かせください。
 ここはもともと慶應義塾大学の体育会関連の別の医療施設になる予定で準備が進められていましたが、何かの事情から取り止めになったのです。しかし、そこでクリニックを開業しようということになり、私も理事として参画することになりました。しばらくは大学病院と並行しながら、こちらで非常勤医師を務めていましたが、2011年に院長に就任しました。そして2013年に理事長に就任しました。


◆ 理事になられた頃はどのような状況だったのですか。
 診療所の設計は済んでおり、レイアウトもほぼできあがっていました。その中でCT室やMRI室の予定だったところを手術室に変更したりしました。最初に院長になられた先生が麻酔科の先生でいらしたこともあって、日帰り手術もできるクリニックにしたいという構想になったのです。それでスポーツ整形中心の整形外科、日帰り手術ができる耳鼻咽喉科、内視鏡メインの消化器内科、内科といった科目の標榜も決まりました。当時の勤務医は皆、非常勤で、慶應の医局出身者が多数いました。今は標榜科目はほとんど変わっていませんが、医師の出身医局は変わっています。


◆ 継承にあたり、マーケティングはなさいましたか。
 コンサルタントに診療圏調査を依頼しましたが、見込みのある数字が出ました。しかし、学校法人内にあるクリニックですから看板などに規制があり、周囲にアピールできないのが残念でした。診療圏調査は信用しない方がいいですね(笑)。「患者さんがいる」という数字が出ることと「実際に患者さんがいらっしゃる」という結果は別だと思います。


◆ 継承にあたって、ご苦労された点はどんなことですか。
 実は私が理事長になったときは赤字だったのです。ホームページを見直したり、電気代などの固定費から細々とした消耗品などの無駄な経費を削ったりすることに苦労しました。一方で、日帰り手術にあたっての医師の取り分を改善し、病院とは違って「働いたら働いただけ」の給与となる仕組みを構築しました。


◆ 医師会には入りましたか。
 入っていません。


◆ 継承当初はどのようなスタッフ構成でしたか。
 非常勤医師が10人ぐらい、看護師は常勤3人、非常勤2人、事務は常勤、非常勤合わせて4人いました。また、整形外科の診療日のみ、放射線技師が1人いました。私どもは診察室が多いのですが、日によって診療科の数が違うので、無駄があったのです。それで継承後はスタッフを適正な配置へ変更しました。


◆ 医療設備については、いかがでしょうか。
 上部、下部の内視鏡、腹部エコー、心電図、レントゲン、骨密度、健診で使う聴力検査などの機器を揃えましたが、CTは導入していません。手術室も作りました。


◆ 設計や内装のこだわりについて、お聞かせください。
 クリニックをよく手がけているデザイナーの方をコンサルタントに紹介していただいたので、依頼しました。最初は円形の設計を提案してくださったのですが、シンプルで、かつ広くしたかったので、変更をお願いしました。受付はホテルのような感じにしていますが、診察スペースは白と緑を基調にしています。多診制ということも決めていましたので、診察室は4つあります。診察室とは別に、ベッドが2つある病室と検査室も設けました。


クリニックについて

◆ 診療内容をお聞かせください。
 内科、膠原病・リウマチ科、消化器科、整形外科、耳鼻咽喉科を標榜しています。一般的な内科診療は毎日、行っていますが、ほかの科は曜日によります。私がメインで担当している膠原病・リウマチ科は膠原病や関節リウマチを対象に診断と治療を行っています。消化器科は「日吉地区からピロリ菌・胃がん撲滅を目指す!」をモットーに内視鏡検査に加え、尿素呼気検査やABC検診なども行っています。整形外科はスポーツ整形のみならず、骨粗鬆症、手・腰・足の外科といった分野のスペシャリストが勤務しています。耳鼻咽喉科は手術室を外部の開業医も利用しており、副鼻腔炎などの日帰り手術に力を入れています。目眩や睡眠時無呼吸症候群などの患者さんも多いです。手術にあたっては麻酔科医に来てもらい、全身麻酔も可能です。


◆ どういった方針のもとで、診療なさっているのですか。
 大学のキャンパス内にあるクリニックにふさわしく、高いレベルの治療を提供したいと考えています。「どうして、ここまで放置しておいたのだろう」ということをなくしたいのです。そのために「1院長多診制」を維持し、大学医局の協力をいただきながら高いレベルの外来を行って、慶應義塾大学病院などとの病診連携を進めながら、患者さんとも紹介先とも良好な関係を築いていくことが方針です。私どもには多くの若手の非常勤医師がいますが、若手医師は「ここまでは自分で診られるけれど、ここからは紹介先にお願いする」といった判断やさじ加減が上手ですね。


◆ 患者さんの層はいかがですか。
 学生が5割、そのほかが5割です。整形外科は高齢の方が中心で、耳鼻咽喉科は子どもさんが多いです。夜は7時までですので、会社帰りのサラリーマンの方もいらっしゃいます。


◆ どのような検診を行っていらっしゃいますか。
 一般的な雇入れ時の健康診断をお受けしています。キャンパス内のクリニックですから、留学前の学生さんの英文標記の検診もしますが、力を入れているのは人間ドックです。人間ドックの内容としては内視鏡検査が多いですね。


◆ 病診連携については、いかがですか。
 最も近い関東労災病院がメインのご紹介先ですが、慶應義塾大学病院や川崎市立井田病院も多いです。整形外科はけいゆう病院、国際医療福祉大学三田病院にお願いしています。


◆ 経営理念をお教えください。
 患者さんも医療者も両者がwin-winとなるような環境を作りたいです。患者さんも1カ所で多科の診察を受けられ、医療者も自己犠牲を強いられるのではなく、やればやっただけの成果が出るよう、皆でwin-winの関係を築いていきたいですね。


◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
 メインとなっているスタッフには月に1回、患者さんの数や売上の報告を兼ねたミーティングを行っています。私どもではそういった中身を知らないと仕事はできないと考え、全てをオープンにしています。スタッフそれぞれからも1カ月の改善点などの報告があります。院長としてはあまりうるさく口を出さないことにしています。


◆ 増患対策について、どのようなことをなさっていますか。
 キャンパス内の看板は規制により出せないので、ホームページが主体です。東急東横線の日吉駅の地下出口に看板を出していますが、来院動機は圧倒的にインターネットです。しかし、患者さんが増えたきっかけとして、「市民公開講座」があります。私が発案して、専門である関節リウマチの講座を3年で4回ほど開催しました。私どもが入居する協生館の2階のホールは定員500人なのですが、ある回は講師が慶應義塾大学のリウマチ内科の竹内勤教授、膝関節疾患の大家である整形外科医であり、慶應義塾大学の大谷俊郎教授であることなどから、1000人以上の応募がありました。ほかにも様々な先生方にご登壇いただきました。そこからリウマチの患者さんが増え、流れに乗るように一般内科にも地域の方がいらっしゃるようになりました。
また、私どもでは診診連携にも注力しています。患者さんには「寄らば大樹の陰」で大病院志向があるので、開業医同士で患者さんを紹介し合うとともに、開業医のレベルの底上げが必須です。そこで「B級リウマチ医の会」である「BRAの会」を近隣の整形外科の先生と主宰し、年に2回の勉強会を持っています。そこでは大学院生による講義を聞くのです。発表することによって、大学院生の勉強になるのは当然ですが、若い人の話は面白く、最先端の内容なので、我々にとっても勉強になります。また、知らないことに恥ずかしさが出ないので、参加者も分からないことを遠慮なく質問できるんです(笑)。そこで知り合った整形外科の先生からのご紹介もあります。関節リウマチの生物学的製剤を用いた治療では点滴スペースも必要ですし、内科的な副作用も心配ですから、整形外科の先生方にはハードルが高いそうです。そこで私どもにご紹介していただき、病状が落ち着いて、ご希望があればお返ししていますので、広い意味での増患対策になっているようです。


開業に向けてのアドバイス

 国は病診連携を掲げ、患者さんを病院ではなく、まずはクリニックに行かせる政策を進めています。そこで、開業医としては開業医でできることを増やしていくことが求められています。したがって、優秀な方に勇気を持ってどんどん開業してほしいですね。それが結局は病院の勤務医を助けることになるのです。

プライベートの過ごし方(開業後)

 テレビドラマの監修を務める機会が多くなったので、退勤後はドラマの関係者の方々とお会いすることもあります。プライベートでは家族で食事に行ったり、子どもと遊んだり、友人と飲みに行ったりすることが好きですね。

タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図
日吉メディカルクリニック
  院長 髙田 哲也
  住所 〒223-8526
神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1
慶應義塾日吉キャンパス協生館 1階
  医療設備 上部・下部内視鏡、心電図、超音波(腹部)、レントゲン、聴力検査、骨密度検査、電子カルテなど。
  スタッフ 34人(院長、非常勤医師18人、常勤看護師2人、非常勤看護師3人、非常勤放射線技師5人、常勤事務2人、非常勤事務3人)
  物件形態 ビル診
  延べ面積 約110坪
  敷地面積 約110坪
  開業資金 約6,000万円
  外来患者/日の変遷 継承当初 14人 → 3カ月後 15人 → 6カ月後 60人 → 現在 160人
  URL https://www.hiyoshi-medical.com/

2019.03.01 掲載 ©LinkStaff

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