「安心、安全、真心」が基本理念です。
矢野 孝子 院長プロフィール
1966年に東京都渋谷区に生まれる。1991年に東海大学を卒業後、日本大学第一内科に入局する。日本大学医学部附属板橋病院、東部地域病院などに勤務を経て、2001年に新小岩クリニックに勤務する。2003年にヒルデモアメディカルクリニック医庵に理事長として着任する。2004年に東京都世田谷区瀬田にはなクリニックを開業する。2008年に19床の有床診療所として、東京都世田谷区千歳台に移転し、千歳台はなクリニックと改称する。2010年に東京都世田谷区成城に訪問診療専門の分院である成城はなクリニックを開院する。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医など。
東京都世田谷区千歳台は環状八号線の西側に広がる住宅街で、地区の中に駅はなく、京王線の千歳烏山駅か小田急線の千歳船橋駅、祖師谷大蔵駅などからバスでのアクセスとなっている。
今月、ご紹介する千歳台はなクリニックは訪問診療を中心とした地域医療を担っている。現在、在宅の患者さんを約600人抱え、矢野孝子院長を含めた10人の医師で対応している。呼吸器内科を専門とする矢野院長は2004年にはなクリニックを開業し、2005年に「グループホームももちゃん」と名付けた18床の介護施設を併設した。2008年には現在地に移転し、介護施設に併設する形で19床の有床診療所である千歳台はなクリニックとしてリニューアルオープンを行った。2010年には分院の成城はなクリニックを開設するなど、地域の在宅患者さんに手厚い医療を提供している。法人名、クリニック名はともに「全ての患者様の人生にハナマルを差し上げたい」という矢野院長の思いが込められている。
今月は千歳台はなクリニックの矢野孝子院長にお話を伺った。
開業に至るまで
◆ 医師を目指された経緯をお聞かせください。
父が横浜市で病院を経営していたので、医療は身近な存在でした。父は医師ではなかったので、私が医師になって、父と一緒に働ければと思ったのがきっかけです。医師になったあと、医局からの派遣で父の病院に週に2、3回、行っていた時期が2年半ほどありました。思いが叶って、忙しかったけど、楽しかったですね。残念ながら父は亡くなり、病院も閉院になったのですが、そこで興味を覚えた在宅医療を今、メインの仕事にできているのは有り難いです。
◆ 大学時代はどのような学生でしたか。
アクティブに活動していましたよ。アメフト部のマネージャーをやったり、軽音楽部、自動車部にも入っていました。軽音楽部ではバンドを組み、年に1回、コンサートを開いたりしていました。
◆ 大学時代はどんなご趣味をお持ちでしたか。
スキーやゴルフが好きでしたね。特に、スキーには熱中していて、北海道に行くこともありましたが、東京に近い長野に行くことが多かったです。長野の民宿にスキー板を置かせてもらったりしていましたよ(笑)。
◆ 卒業後、日本大学第一内科に入局しようと思われたのはどうしてですか。
自宅も都内でしたし、日大には友人がいたことが大きかったです。第一内科にしたのは特に理由はありません(笑)。呼吸器疾患に興味があったので、呼吸器を主に扱っていた第一内科に決めました。
◆ 専門を呼吸器内科に決められた経緯をお聞かせください。
内科疾患の中では呼吸器疾患が一番多いですし、レントゲンを読めたらかっこいいだろうなあと考えたからです。不純な動機ですね(笑)。
◆ 勤務医時代はいかがでしたか。
入局した当初は本当に何もできなかったし、頓珍漢なことをしてはよく怒られていました(笑)。3年目に葛飾区の東部地域病院に異動になりました。そこに上の先生が2人いらして、みっちりとしごかれましたよ。東部地域病院は呼吸器と消化器は日大だったのですが、ほかは様々な大学からの先生たちがいらしていて、活気がありましたね。そういう環境のもとで、医師としての力もついたと思います。当直も辛かったけれど、頑張りました。父の病院に行っていたのもその頃のことで、日曜日も仕事をしていましたので、休みは全くありませんでした。夏休みと冬休みだけは保証されていましたので、そのときに海外旅行に行くのが楽しみでしたね。
◆ 在宅医療にシフトされていったきっかけはどういうものだったのですか。
肺がんを専門にやってきて、血液や免疫なども学び、いわゆる「がん病棟」に勤務していました。呼吸器疾患は命を失うことも少なくありません。しかし、自宅に帰りたいとおっしゃる患者様は多いんですね。そこで在宅医療に興味が出てきたんです。父の病院でも老人ホームへの訪問診療を行っていましたし、高齢者の方々と接するうちに、認知症の方は特にかわいい、愛おしいと思うようになりました。そして、この人たちの努力のお蔭で今の豊かな日本があるのだなあと改めて気付かされました。そこで葛飾区の新小岩クリニックに勤務し、在宅医療を始めました。
開業の契機・理由
◆ 開業を決心された理由をお聞かせください。
新小岩クリニックで山田事務長と出会ったことが大きなきっかけでした。勤務医の場合、在宅を増やすことや売上など、上から指示されることが多いですし、ヒルデモアのクリニックはヒルデモアに入居している人が対象ですから、一般のご家庭に訪問診療に行くのが夢でもありました。そこで、自分の思った通りの医療をするために、思い切って開業しようかということになったんです。
◆ 最初は瀬田で開業されたんですよね。
世田谷は昔からよく知っている地域ですし、診療圏調査をもとに物件を探して、瀬田に決定しました。訪問診療専門のはなクリニックとして、2004年に開業しました。この「はな」という名称は「全ての患者様の人生にハナマルを差し上げたい」という思いから名付けたものです。
◆ 千歳台に移転を決意された理由をお聞かせください。
在宅だけを行っていますと、いざ入院となったときにベッドを探すだけで半日、潰れてしまうんです。病院に行けば行ったで、「何で、こんなになるまで来なかったんだ」と言われ、ご家族がびっくりされるということもありました。そのときに私どもが悪かったんだと患者様やご家族に捉えられることもあり、辛かったんですね。病院の医師は在宅の現場を知らないですし、色々な溝が生じてしまいます。認知症や感染症の場合、緊急時にも入院を拒否されるケースもあるんです。そこで、私が有床診療所を開設すれば入院もでき、末期がんの患者様もお預かりできるし、在宅で看取りを行うこともできると考えました。患者様の高齢化に伴い、複数の疾患を併せ持つ患者様も増えていますが、私どもで幅広く対応したいと思いました。そして、2年がかりで土地を探し、銀行に融資をお願いしました。今回もやはり診療圏調査が決め手になりました。20床未満の診療所という形式にしたのは医師当直が不要だったからです。医師会の先生方からは「大丈夫なの」と心配されましたが、在宅というのは大きな強みになりますので、経営的には問題ないんですよ。
◆ この場所の第一印象はいかがでしたか。
環状8号線から1本入っただけなのに閑静だなあと思いました。世田谷にこんなにも自然と緑が多くて、のんびりした場所があるのには驚きでしたね。ここは東京テラスのパーキングだった場所なんです。東京テラスは青山学院大学のキャンパス跡地に建ったマンションで、3000人が住んでいると言われている大規模物件です。最近は東京テラスのほかにもマンションが続々と建ってきましたが、駅から遠いこともあって、私どもを気に入ってくださっている人だけが外来にいらしているという感じですね。
◆ 開業するまでにご苦労された点はどんなことでしょうか。
スタッフ集めですね。看護師や介護スタッフなど、ひたすら募集をかけましたが、最初はなかなか応募がなかったんですよ。ネットや求人雑誌などを使ったり、私どもで既に働いているスタッフからの紹介を受けて、徐々に集まりました。
◆ 内装はどのようなこだわりがおありでしたか。
クリニック専門の建築士にお願いしましたが、壁紙一枚から私とスタッフとで選びましたよ。見本となるような病院にも見学に行きました。高齢者がメインですから、明るすぎないこと、柔らかさを感じさせることにこだわりました。院長が女性ですので、女性らしい雰囲気になるようにという点にも心を配りました。病棟も綺麗ですし、高級感があるんですよ。
◆ 医療設備についてはいかがでしょう。
CTを購入したのがこだわりと言えるでしょうか。不要だとも言われたのですが、高齢者は転倒が多いので、骨折を診断したかったですし、世田谷区の認知症診断もお引き受けしているので、役に立っています。
クリニックについて
◆ 診療内容をお聞かせください。
地域に貢献したいという思いから、在宅、外来に加えて、世田谷区の健診などもお受けしています。標榜科目は一般内科、呼吸器科、循環器科、アレルギー科、訪問診療です。苦痛や痛みを軽減する緩和医療も行っています。呼吸器科は肺がんの患者様が多いですね。成城はなクリニックの藤江先生も呼吸器が専門ですので、呼吸器科、アレルギー科の患者さんは私と藤江先生で診ることが多いです。循環器科は専門医が常勤していますし、最近は眼科も週に3回の外来、週に1回の訪問診療を行っています。眼科は白内障、緑内障のニーズが高いですが、眼鏡やコンタクトレンズなど、一般的な診療もしています。
しかしながら、メインは訪問診療にあります。現在、一般のご家庭と施設の600人の方を診ています。
◆ 訪問診療の難しさはどんなところにありますか。
患者様や患者様のご家族とのコミュニケーションのとり方ですね。なるべく声をかけて、ご家族も含めて話し合う機会を増やすようにしています。飲み会などもやっていますよ。看取りに関しても、昔とは方法が変わっています。昔は亡くなる直前まで点滴を行っていましたが、今は行わない方向になっているんですね。そういうときに患者様のご家族との間のコミュニケーションが必須なんです。「点滴はむくんでしまうだけですし、自然な形にしましょう」などとお話しし、納得していただくことを心がけています。
◆ 病診連携についてはいかがでしょう。
連携先の主な病院は東京医療センター、関東中央病院、久我山病院などですね。東京医療センターと関東中央病院は臨床研修指定病院ですが、私どもは研修プログラムの中の「地域医療」での研修先に指定していただいています。毎年、ジュニアレジデントが研修しに来るのですが、皆が「楽しい」と言って帰っていくのが私としても嬉しいです。さらに、嬉しいことには、その研修医だった一人が今、訪問診療専門の医師になっているんですよ。
◆ 経営理念をお教えください。
「安心、安全、真心」が基本理念です。これは患者様や患者様のご家族のみならず、スタッフ同士でも通じることだと思います。スタッフの間でも「安心、安全、真心」があれば、患者さんに対して、いいサービスを提供できるはずだと、朝礼でも繰り返し話しています。
一方で、地域密着の姿勢も持ち続けていたいですね。私どもの3階はグループホームのももちゃんなのですが、ももちゃんでは夏祭りや餅つき大会を行っていて、地域の方々もお招きしています。また、私どもの医師が講師となって、地域の方々を対象に勉強会なども開催しています。
◆ スタッフ教育はどのようにされていますか。
接遇に関してはシリーズとして、外部の講師に来ていただいています。また医師が講師となって、認知症などの院内研修も活発に行っています。私は開業当初から、病棟であっても、病院らしくなく、在宅に近い看護を行うことが理想でしたので、看護師には「在宅に近い看護を病棟でするには」という教育をずっと行ってきました。例えば、私どもでは末期がんの患者様には食べたいものを食べていただきますし、希望されれば、お酒もお出しします。ご家族に泊まっていただくための和室もデイルームの横に設けていますし、特別室という広い部屋はベッドを貸し出せば、ご家族も同じ部屋に泊まれるんです。このように病院とはかなり違いますから、看護師も最初は戸惑いがあったようですが、最近では私のやり方に理解を示してくれていますので、とてもスムーズになっています。
◆ 増患対策について、どのようなことをなされていますか。
最初は各病院から紹介患者さんを回していただけるように、各病院の地域連携室にご挨拶に行き、内容を説明したうえでパンフレットを置かせてもらっていました。築地の国立がん研究センター中央病院や慶應、女子医大、東邦、聖マリアンナなどの大学病院にも足を運びましたよ。開業した頃は神奈川県に同様の施設がなかったようで、神奈川県からの患者さんが多かったのですが、今は神奈川県にも施設が増えてきたので、神奈川県の患者さんは減って、近場の患者さんが増えてきたところです。
開業に向けてのアドバイス
私どもの場合は専任の事務長を置いていますので、事務長が経営全般を取り仕切り、私が医療に専念できているのが強みです。医師は経営学を学んでいるわけではないので、経営を考えながら診療するのは難しいです。お互いの持ち場には口を出さない、いいパートナーに恵まれるといいですね。開業にあたっては、何をやりたいのか、どういう医療を目指したいのか、そして、それは患者様にどういうメリットをもたらすのかなどを深く考えてみていただければと思います。
プライベートの過ごし方(開業後)
英会話が好きで、今は子どもの英会話の先生にお願いして、私もレッスンをしていただいています。そのほかは食べ歩きが好きですね。でも今は子どもと一緒に過ごす時間が一番、楽しいです。休みの日には24時間、一緒にいますよ。
タイムスケジュール
クリニック平面図
クリニック概要
千歳台はなクリニック | ||
院長 | 矢野 孝子 | |
住所 | 〒157-0071 東京都世田谷区千歳台5-22-1 |
|
医療設備 | 電子カルテ、ヘリカルCT、X線装置、浴室(一般浴、機械浴)、リハビリ室、電子スパイロメータ、FORM、検眼機器、視野検査、眼底カメラ、細隙燈顕微鏡、ハンドスリットボンノスコープ、心エコー、腹部エコー、脈波、心電計 | |
スタッフ | 90人(院長、常勤医師6人、非常勤医師6人、看護師15人、看護助手4人、レントゲン技師3人、リハビリスタッフ3人、薬剤師1人、介護スタッフ32人、事務スタッフ15人、ドライバー4人) | |
物件形態 | 戸建 | |
延べ床面積 | 1808.4㎡ | |
敷地面積 | 650.91㎡ | |
開業資金 | 約9億5千万円 | |
外来患者/日の変遷 | 開業当初(5)名→3カ月後(15)名→6カ月後(30)名→現在(50)名 | |
URL | http://www.ty-hanamaru.or.jp/ |
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