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患者さんとの絆強く、ニーズに応える医療

窪田 美幸 院長

窪田 美幸 院長プロフィール

1957年に福岡県に生まれる。1982年に東京女子医科大学卒業後、東京医科歯科大学眼科学教室に入局する。その後、東京都立駒込病院に勤務した後、スウェーデンのカロリンスカ研究所に2年間の留学を行う。帰国後、小金井眼科勤務を経て、2000年に三軒茶屋眼科を開業する。

 「三茶」の愛称で親しまれている三軒茶屋は世田谷区にありながら、どこか下町を思わせる庶民的な街である。国道246号線が街の東西を横切り、渋谷から東急田園都市線で2つ目と地の利もよいが、商店街に入れば、軒先から威勢のいい声がかかるなど、新しさと古さが調和した雰囲気がある。
 三軒茶屋眼科は三軒茶屋駅から徒歩数分の商店街の一角にあり、目立たぬような小さな看板を掲げていた。窪田院長が界隈を歩けば、お馴染の患者さんから「おはよう」、「こんにちは」の声がかかり、つい世間話に話が咲くという。医師と患者の間の信頼関係がとみに薄くなったといわれる昨今だが、三軒茶屋眼科を受診すれば頼りになる眼科専門医であり、行きつけの飲み屋で杯を重ねれば気心知れた飲み仲間となるなど、窪田院長と患者さんの間には何でも話せる良好な関係が築かれている。


開業前後

病院風景01

 「なぜ眼科を選ばれたのですか?」の問いに、「外科系の仕事が好きだったし、眼科は女性にも向いている」という答えが返ってきた。

 「学生時代に眼科手術を見て、その美しさに圧倒されました。もともと手先が器用でもあり、顕微鏡手術をする眼科は自分に向いていると思いました。それに眼科は急患も少なく、出産という仕事がある女性のライフサイクルを考えると、無理せずに続けられる診療科なのではという思いもありました。」

 窪田院長は勤務医時代には無医村での診療経験を持ち、結婚後はカロリンスカ研究所で研修するなど、若いときから行動派であった。日本に帰国してからは、外科医であるご主人の出身地である三軒茶屋に住んでおり、そういった縁で開業地も三軒茶屋に決定した。

 「世田谷区にしては庶民的な街ですね。開業する前、頼まれて、小金井眼科で10年ほど院長をしていましたが、そのときに感じたことを今でも実践しています。たとえば患者さんをお待たせしないということやクリニックをできるだけ開放的にして、患者さんやスタッフの動きを把握して、全てに対応できるようにすることなどですね。」

 こういった取り組みにより、院長やスタッフの行動は機能的である。予約制でないにもかかわらず、よほど混んでいないかぎり、患者さんを待たせることが少なくなったという。
 「ですから、受付を済ませてから10分も待つと、常連の患者さんは『まだかなあ』という顔をされますね。」

 今でこそ1日70人から80人の患者数であるが、開業当時は10人から15人程度の患者さんしか受診しなかったため、診療所をPRするために様々な工夫を行った。

 「眼科のない近所の病院に出向いて、『眼科的に問題のある患者さんがいたら、いつでも往診しますから』とお願いしたり、ビラ配りもしました。知り合いの医師に出会うと恥ずかしいので、サングラスをかけて1カ月ほど街頭に立ったでしょうか。おかげでビラの折り方や配り方は随分、上手になりました(笑)。」


クリニックの内容・経営方針

病院風景02

 眼科のクリニックであるが、患者さんの全身の相談に乗っているため、他の診療科を紹介することもしばしばだという。眼科開業医は専門医であると同時に、プライマリケアもカバーしなければならない。眼科的診断、たとえば眼底検査から糖尿病を疑って、内科を紹介することもある。また、「見え方がおかしい」という主訴で受診した患者さんを神経内科専門医に紹介したら、脳腫瘍だったということもあった。

 「大学時代あるいは勤務医時代と違って、開業すると医師との交流が少なくなり、孤独感に襲われることがありますが、私の場合は眼科以外の先生から声をかけていただいたり、一緒に飲みに行ったりと交流があります。そうした交流が患者さんを紹介するときに役に立っていますね。逆に内科の先生から私どもを紹介していただくことも少なくありません。」

 患者さんは地域の人がほとんどであり、顔なじみの人も少なくない。

 「白内障、結膜炎、アレルギー疾患、緑内障など一般的な眼科疾患の患者さんが多いのですが、他科の疾患を合併しているときなどは自分で抱え込まず、専門医を紹介することが大切だと思っています。」

 子どもを保育園に預けなければならないので、「診察時間前に診てもらえないだろうか」と頼まれても、すぐに対応している。

 「夜の8時、9時でも求められれば往診をします。日曜日でも診察を望まれる患者さんがいれば、応えています。それが地元に生きる開業医の本来の姿だと思っていますし、診てあげるのではなく診せていただく姿勢を大事にしています。」

 「寄らしむべし、知らしむべからず」という言葉がある。「患者は医学のことなど何も知らないのだから、黙って医師の言うことを聞いていればよろしい」という意味だが、そうしたパターナリズムでは開業医はやっていけないという。窪田院長はいつも患者さん本位の医療を心がけ、それを楽しみながら実践している。
 「地域の人達の便利屋さんでいいと、私は思っています(笑)。」
 スタッフは診療助手が3人と受付が1人で、人柄本位で採用した。
 「採用にあたっては、人と接するのが好きだというのは絶対条件です。患者接遇のセミナーに参加してもらったり、講師を呼んで、接遇マナーの勉強をしてもらったことがありますが、患者さんと接するのを厭うような方では勤まりませんね。」
 診察室は奇を衒わないシンプルな設計となっている。昨今、ブティックかレストランを思わせるファッショナブルなクリニックも少なくないが、三軒茶屋眼科は気取りのない街にふさわしい暖かさを感じさせる。
 「実は床暖房なんです(笑)。打ちっ放しの壁は10年前はトレンドだったのですが、患者さんからは『先生のとこ、お金がないんですね』と同情されます(笑)。一番、こだわったのはバリアフリーにすることですね。床もラフィアという麻の絨毯にしました。スウェーデンの病院に敷いてあるのを見て、滑らなくて、掃除も簡単だし、とてもいいと思っていたんです。」
 特に高齢者の患者さんにとっては嬉しい配慮である。およそ20坪の診療所には窪田院長が見渡せる範囲に診察台が配置されている。開放的な空間だが、患者さんが他に聞かれたくないと思われる微妙な問診は仕切りのある場所で行うなど、個人情報への配慮も怠りない。
 「個人情報保護は大切ですが、患者さんの名前を呼ばずに番号で呼んだり、患者様というへりくだった言い方はあまり好きではありません。患者さんで十分だと感じています。」
 丁寧語も度が過ぎれば慇懃無礼になり、かえって失礼になる。診察室ではほどよい距離感で患者さんとつき合い、行きつけのレストランで常連の患者さんに会えば、友だち同士のように杯を重ねるのが窪田流のコミュニケーションである。


地域の医療環境

病院風景03

 三軒茶屋駅から渋谷寄りの隣は池尻大橋駅で、東邦大学医療センター大橋病院がある。また、三軒茶屋眼科の近くにもいくつかの病院があり、病診連携を積極的に進めている。

 「私は眼科のない病院に往診します。先ほども言いましたが、内科の先生が私のところに紹介してくださるケースも少なくありません。糖尿病を管理されている先生は、合併症として網膜症を発症すれば、すぐに紹介してくださいます。その意味で病診連携、診診連携はとてもうまくとれていると思います。」

 患者さんのニーズから脱毛、ピーリングなど美容関連の治療も行う。「眼科で美容」は珍しいが、「先生、やってよ」と言われれば、勉強して、患者さんの期待に応えている。最近では特殊なカーブデザインが施されたハードコンタクトレンズを装用して角膜形状を矯正し、屈折異常を治療するオルソケラトロジー(角膜矯正療法)も手掛ける。これは主に就寝中に装用することで角膜形状を矯正し、レンズを外した後も一定期間、裸眼視力を維持できるのが特徴である。

 「オルソケラトロジーは最近の治療法ですが、有効性と安全性が確認されています。非侵襲的ですし、患者さんは皆、ご近所なので、何か問題があればすぐに対応できることから、私どもでも始めました。美容関連は完全に患者さんのニーズに応えたものですが、受診することで楽しい思いをしていただきたいという気持ちもありました。」


院長のプライベート

 料理は食べるのも作るのも好きですね。飲むのはもっと好きなのではないでしょうか(笑)。私がお酒を好きだということを知っている患者さんたちは「先生、好きでしょ」と言って、ボジョレーヌーボーの解禁日にはワインを持ってきてくださいます。「お地蔵さんのお供えみたいね」と笑いながら、一生懸命に飲んでいますが、大変です(笑)。本当はイタリアワインが好きなんですけどね。今、タイ料理に凝っていて、ある会合で料理が足りないといわれ、春巻を100本作りましたよ。


開業に向けてのアドバイス

病院風景04

 病診連携、診診連携を行うときでも、お互いの顔を知っていれば頼みやすいですね。地域に縁もなく、全く知らない土地で開業されることも多いと思いますが、医師会活動や「若手医師の会」など、様々な会に参加して、多くの先生と知り合いになることが大切です。私は眼科と関係のない内科の勉強会にも参加するようにしています。そうすると全身疾患の勉強もできますし、内科の先生と知り合う機会も増え、折に触れて声をかけていただいています。CTやMRIの検査が必要なときでもお願いしやすいですね。


患者さんから見た窪田院長

 長年、患者さんとして、また友人としておつき合いのあるイタリア料理店「グッチーナ」の田口昭夫オーナーシェフに、窪田院長の人となりについて語っていただきました。

本格炭火焼肉 新しいNIKU料理「ハッチとノラ」 【窪田院長とのおつき合いは長いのですか?】
 グッチーナがオープンした頃、お客様としてご来店いただいたのがきっかけで、親しくおつき合いさせていただいています。まだ開業される前で、ご家族とお見えになっていました。眼科医であることは分かっていたので、ご来店いただいた折などに花粉症の相談に乗っていただくなど、気さくにお話ししていただいたことが印象に残っています。
 16、17年前におつき合いさせていただくようになったのですが、当時から上品で優しい反面、ざっくばらんな性格の方で、かっこいい先生でしたね。開業されてからは、クリニックのスタッフの方と一緒にランチを召し上がりに来ていただくこともしばしばですが、楽しそうにお食事をされるので、料理を作る私たちも嬉しくなります。

【窪田先生のよいところは?】
 医師としては頼りになる先生であり、友人としてはとても楽しい方です。ワインがお好きなのですが、ご自分のワインを店に持ってきて、「みんなで飲みましょう」と言って、振る舞ってくださることもあります。オープン記念日や私の誕生日などには、友人や親しいお客様を呼んでパーティーを開くのですが、先生には受付をやっていただいています。お誘いすると決して断りません。私も遊ぶことが好きなのですが、先生がご一緒してくださると、綺麗で花がありますから、誇らしいんですよ(笑)。

【窪田先生に期待することとは?】
 プライベートは先生らしくないですね。医師を職業にしている方はプライベートでも話題が医学のことが多く、私などは話に入り込めないことがあるのですが、窪田先生は肩書きを外されたときは本当に楽しそうです。それがとても嬉しいですね。いつまでも今のまま、楽しくて優しく、美しい先生でいてください。

【取材協力】
イタリア料理店「グッチーナ」
住所:東京都世田谷区三軒茶屋1-6-13
TEL:03-3795-5587
URL:http://homepage2.nifty.com/guccina1/


タイムスケジュール

タイムスケジュール

クリニック平面図

平面図

クリニック概要

三軒茶屋眼科

  院長 窪田 美幸 氏
  住所 〒154-0024
東京都世田谷区三軒茶屋1-5-14 パラスティアイ103
  医療設備 眼底カメラ、自動視野計
  物件形態 ビル
  延べ床面積 -坪
  開業資金 -万円
  URL http://www.sangenjaya-ganka.com

2009.09.01.掲載 (C)LinkStaff

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